修復物周囲の透過像が冗進していると思うのですが,う蝕でしょうか.


臨床のポイント
目に見える情報を重視するあまり,本質が見えなくなってしまっている場合が多いように思います.例えばメタルインレーなど修復物周囲や根尖に黒い透過像を見つけると,すぐに何らかの病変が存在する可能性があります.もちろん,本当に齪蝕や炎症などの病変が存在する場合もありますが,
必ずしもそうとは限りません.したがって,視覚情報だけを頼りに診断しようとせず,様々なシチュエーションを想定して診’祈する癖をつけておく必要があります.


②メタルインレー直下に透過像が見えた時に考えられること
深在性の雛蝕にメタルインレー修復を施す場合,齪蝕罹患歯質をまず除去してから次に補強裏層(ベース)を行い.その後にメタルインレー修復に見合った窩洞形態に仕上げていくのが一般的です.ベースには通常グラスアイオノマーセメントか,あるいは修復用コンポジットレジンなど,象牙質に近似した圧縮強さを有した材料を使用します
裏層用グラスアイオノマーセメントとして。日本で広く使川されている製品の1つに松風ベースセメント(松風)があります.このベースセメントにはピンクとホワイトの2色が用意されていますが,

ホワイトにはエックス線造影性が付与されているものの、

ピンクには造影性がないことは意外と知られていないようです.

つまり,もしピンクのベースセメントで深い雛窩を埋め立ててしまった場合,メタルインレーの直下には黒い透過像が観察されることになってしまいます.他院で修復処置を施されている場合にはインレー体を除去してみないと齪蝕の取り残しが存在しているのかそれとも造影性のないセメントで裏層されているのかの判別がつかない場合もあります.

インレー辺縁の適合が良く,漏洩らしき所見が認められない場合には齪蝕である可能性は少ない,

と考えるのが妥当でしょう.また,もし自院で修復された歯である場合には,まず当時のカルテを確認し,裏層に何を使用したのかを把握しましょう.


③コンボジットレジン修復部やその周囲に透過像が見えた時に考えること
まず,コンポジットレジン修復の場合には,少なくともボンディング材を併用するのが普通ですし,ボンディング材層とコンポジットレジン層の間に低粘性レジンをライニングしている場合もあります.
コンポジットレジンやボンディング材では,フイラーにバリウムなど造影性を備えたものを使用している場合が多いのですが,

ボンディング材は粘性を抑えるため,フイラー含有量は修復用コンポジットレジンより少なく,

そのためボンディング層はコンポジツトレジンの層よりエックス線不透過性は弱くなります.

特に1ステップ型のボンディング材にはクリア
フィルユニバーサルボンドクイックER(クラレノリタケデンタル)に代表されるフイラー配合型と,

G-プレミオボンド(ジーシー)などフイラー無l児合型のものがあり,後者では一般にエックス線造影性が付与されていません.また一昔前の前歯部修復用コンポジットレジンでは,エックス線造影性が全く付与されていない製IW1も多く,そのため口腔内をみるときちんと修復されているのに,エックス線ではI#1冠が虫食い状に見えることもあります.


⑧4-META/MMA-TBBレジンにも,基本的には造影性がない
4-META/MMA-TBB系レジン(スーパーボンド”.サンメデイカル)はその高い接着性もさることながら,レジン系歯科材料の中でも極めて生体親和性に優れ,歯髄刺激性が少ない
材料であることが知られています.そのため.スーパーボンドのへビーユーザーの場合には,破折した歯根を口腔外で接着させ再柚したり,根尖切除術における逆根管充填に用いたり,あるいは覆髄材料やパーフオレーションリペアの材料として使用している場合もあります.
しかしながら,

スーパーボンドもまた,通常はエックス線造影性が付与されていない材料で
あり,エックス線診断では頭に置いておかなければならない事項です.スーパーボンドのポリマー(粉末)ではエックス線造影性を有する「ラジオペーク」も販売されていますが。歯科医院に備え付けられてなければ通常のポリマーが使用されている場合もありますので,

例えば根尖切除が施されたと思われる歯の根尖部に透過像があったとしても,それは必ずしも根尖病変とは限らず,根尖を封鎖したスーパーポンドがエックス線透過像として見えているだけ.という可能性もあるのです.

まとめ
自分自身がきちんと修復した歯を他の歯科医師から飢蝕と勘違いしてしまうことがないよう,各種歯科材料が有しているエックス線造影性を材料ごとに把握しておきましょう.そして,患者さんの口腔内に使用されている材料は決して最新のものばかりではない

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