口腔乾燥症


口腔乾燥症は、唾液量の減少を伴う口腔乾燥感でその原因は大きく
分けて、①体液量の減少に伴い唾液三が減少するタイプ、②唾液分泌
機能低下に伴い唾液が減少するタイプがある。


1)体液量減少による口腔乾燥症
原因は熱性疾患、下痢、尿崩症、糖尿病、多汗症、バセドウ病、心不全、腎不全、貧血、人工透析や利尿剤の服用、過度なアルコール摂取などがある。また、忘れてはいけないのが、進行がん患者や肺機能
障害患者にみられる腹水や胸水の貯留である。


2)唾液分泌機能の低下に伴う口腔乾燥症
原因は、唾液腺の分泌機能が直接低下したものとして加齢、唾液腺の炎症や腫瘍、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患への罹患、がん化学療法や頭頸部領域への放射線照射、特殊なものとしてはGVHD、サルコイドーシス、AlDS、悪性リンパ踵への罹患がある。


また、唾液分泌に関与する神経伝達系の障害により唾液分泌機能が低下したものとしては最も多いのが薬剤の副作用である。降圧剤(Ca拮抗剤)、向精神薬抗不安薬抗うつ薬、制吐剤、抗ヒスタミン剤、
副交感神経遮断薬(抗コリン薬)などは唾液分泌機能を抑制する。その他には抑うつ状態、脳の障害、顔面神経や舌咽神経麻痒などがある。


また、強いストレスや更年期障害でも唾液分泌機能が低下する。

な口腔乾燥症治療薬には、セビメリン塩酸塩水和物(サリグレン、エボザック)、ピロカルピン塩酸塩、サリベート(サリベート⑧)があるが、セビメリン塩酸塩水和物の使用はシェーグレン症候群に伴う口腔乾燥症状の改善、放射線治療またはシェーグレン症候群に伴う口腔乾燥症状の改善に限られている

■第1選択薬として、
【セビメリン塩酸塩水和物(サリグレン・工ボザツク)
または
【ピロカルピン塩酸塩(サラジエン)1日3回(毎食後)】


■第2選択薬(第1選択薬が使用できない場合、または第1選択薬と
併用で使用)
【サリベート(サリベート
(保険適応:頭頸部の放射線照射による唾液腺障害に基づく口腔乾
燥症またはシェーグレン症候群による口腔乾燥症)


■第3選択薬(第1選択薬が使用できない場合、または第1、2選択
薬と併用で使用)
①口渇、ネバ付き感(水分の付加による口内炎、急性歯肉炎、舌炎の治療)
【アズレンスルホン酸ナトリウム水和物・炭酸水素ナトリウム合薬(含
嗽用ハチアズレ穎粒、
②口腔内の不快感(口腔内の消毒による清涼感の付与)
【ベンゼトニウム塩酸物(ネオステリングリーン)
③舌痛、ザラ付き感(舌炎に対する口腔粘膜の保護)
【アズレンスルホン酸ナトリウム水和物(アズノールうがい液

投薬する際の患者に対する注意
セビメリン塩酸塩水和物(サリグレン、エボザック)、ピロカルピン塩酸塩(サラジエン)の2つは主として唾液腺に存在するムスカリン受容体を介した副交感神経を刺激することにより唾液分泌を促進させる。しかし、ムスカリンM3受容体は唾液分泌以外にも気管支、膀胱排尿筋、消化管平滑筋、眼毛様体筋、血管平滑筋などにも関与している。そのため菫篤な虚血性心疾患、気管支喘息、消化器や膀胱頸部に閉塞のある症例、てんかん、パーキンソン病、虹彩炎のある症例では使用禁忌となっている。


①セビメリン塩酸塩水和物の副作用
副作用は症状別では嘔気・嘔吐を代表とする消化器症状が最も多く、次に多汗、頻尿が多い。
嘔気・嘔吐は本剤を中止した理由で最も多い。

②ピロカルピン塩酸塩の副作用
副作用は多く、放射線治療およびシェーグレン症候群に伴う口腔乾燥症に対する本剤の副作用発現率は50~90%台と報告されている。
最も多いのは多汗で約1/3人の割合で発現している。次いで鼻汁、下痢、セビメリン塩酸塩水和物で多くみられた嘔気や頻尿は多くない。
副作用による中止例は10~30%で大部分が多汗である。また、セビメリン塩酸塩水和物では少ない頭痛の発生頻度が高い傾向がみられる。

留意点:①シェーグレン症候群や放射線照射に伴う口腔乾燥症では、唾液分泌量を増加させる原因療法がないため、治療は対症療法となり長期に投薬を行う必要がある。
②唾液の口腔内での働きを考慮すると、セビメリン塩酸塩水和物やピロカルピン塩酸塩の投与開始は速やかに行うことが望ましい。
③セビメリン塩酸塩水和物およびピロカルピン塩酸塩は、長期投薬においても副作用発現頻度の上昇や薬剤耐性による効果低下を懸念する必要は少ない。
④効果発現には時間を要し、中止すると効果は軽減または消失する。
⑤シェーグレン症候群により腺組織が高度に破壊されてしまうと投薬効果が得られ難い

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