味覚障害は高齢者に多い疾患である。日本での生活習慣病の増加や
超高齢化社会を背景に味覚障害患者は増加し、歯科を受診する患者も
増えている。
1)症状
味覚異常の訴えは多岐にわたり、味の感じ方が鈍くなる(味覚減退)、
まったくわからない(味覚脱出)、口内には何もないのに特定の味が持
続する(自発性異常味覚)、本来の味とは異なった味に感じる(異味症)、
特定の味質がわからない(解離性味覚障害)、飲食物が嫌な味に感じる
(悪味症)に分けられる。このうち、もっとも多いのは味覚減退である
が、食事とは関係しない自発性異常味覚も多い。
2)原因
味覚障害の原因は、従来より、亜鉛欠乏性、特発|生薬剤性、心因
性、口腔疾患、全身性、嗅覚障害、感冒後、医原性などに分類されて
きた。味覚障害の治療は原因別で異なるため、原因を探索する必要が
あるが、味覚障害は原因診断そのものが困難な場合が多い。理由は原
因別の診断基準が定まっていないため、施設や担当医ごとの主観で評
価されていること、原因が重複している症例が少なからず認められる
こと、味覚障害の原因別で特異的な症状はないため、治療による反応
を確認しないと評価の困難な症例が多いことなどがあげられる。
最近の歯科からの報告では特発性、口腔疾患、心因性の割合が高く、
これらで全体の3/4を占めていた。口腔疾患のなかでは、カンジダ症
が全体の半数以上を占め、次いで口腔乾燥症、舌苔・毛舌舌炎(悪
性貧血、鉄欠乏性貧血)であった’)
3)治療方針
、’
一〆
薬剤性、全身疾患、口腔疾患、嗅覚障害、感冒後、医原性は、味覚
障害の誘因となるためその治療を行う。薬剤性や全身疾患、
感冒後は薬剤の亜鉛のキレート作用や亜鉛吸収障害、排泄三増加、代
謝の冗進が原因となるため亜鉛製剤の投与も行う。亜鉛欠乏性は亜鉛
製剤の補充療法、特発性や心因性はまずベンゾジアゼピン系の抗不安
薬であるロフラゼプ酸エチル(メイラックス)窯を投与する。
口腔疾患
■カンジダ性
処方例
味覚障害の原因としての口腔疾患のなかで-番頻度が高い。カンジ
ダ検査でカンジダの増殖が認められた場合は、抗真菌薬を投与する。
3種類(ミコナゾール、アムホテリシンB、イトラコナゾール)が使用
可能であるが、義歯使用者にはミコナゾール(フロリードゲル)を投
与し、義歯内面にも塗布する。
また投与前にはワルファリンや使用禁忌の薬剤を服用し~ていないこ
とを確認する。カンジダが除菌されても味覚の改善が認められなけれ
ば他の原因を考える。
【ミコナゾール(フロリードゲル)、1日3~4回】〔口腔カン
ジタ症適応〕
■口腔乾燥
ガムテストで唾液の分泌状態を確認し、唾液の分泌状態がある程度
保たれている場合は、ガムなどの咀0爵刺激、唾液腺のマッサージ療法
保湿指導、漢方薬(麦門冬湯、白虎加人参湯、五苓散など)を試みる。
唾液の分泌が高度障害されている場合は、人工唾液や保湿剤(オーラ
ルバランス、ビバ・ジェルエットなど)を使用する。
【ツムラ白虎加人参湯工キス穎粒1回1包1日3回】
〔口渇で保険適応〕
■舌炎
ビタミンVB12欠乏で発生する悪性貧血によるハンター舌炎と、鉄
欠乏性貧血による舌炎が該当する。いずれも貧血症状が出現する前の
初期症状として、味覚異常を自覚することが多い。口内所見では、舌
乳頭の萎縮、発赤を呈する平滑舌が特徴的である。治療は、悪性貧血
はメコバラミン(VB12)、鉄欠乏性貧血は鉄剤の投与が必要になるた
め内科にコンサルトする。
亜鉛欠乏性
血清亜鉛値が70βg/dL未満で、他に明らかな誘因のないものを定義
とすると、これに該当する症例はさほど多くはない。亜鉛補充療法の
ポラプレジンクや院内製剤での硫酸亜鉛の投与が第一選択薬ではある
が、実際に効果が期待できるのは血清亜鉛値が明らかに低い60g/dL
未満の症例である。
【ポラプレジンク(プロマック⑧D錠75)1回75mg1日2回亜鉛と
して1日量34mg】
即効性はないので、効果がすぐ認められなくても最低3カ月は継続
投与する。ポラプレジンクの「味覚障害」に対する保険適応はとれてな
いが、2011年9月に「医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取り扱
いについて」で味覚障害に対して保険審査上使用が認められた
心因性
心理テストなどを参考にし、ロフラゼプ酸エチル単独でまず反応を
みる。4週間投与しても何ら反応が得られない場合は、同系のアルプ
ラゾラムを試みる。明らかな神経症傾向や、うつ傾向が強い症例は
SSR’(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNR’(セロトニン・
ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)を単独投与もしくは、ロフラゼ
プ酸エチルと併用投与する。それでも効果が認められない場合は、三
環系の抗うつ薬であるアミトリプチリンを検討する。
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