急性歯髄炎
象牙質-歯髄複合体において、痛覚を伝える求心性C線維の多くは
歯髄深層に終止している3)。それらの空間的配置および高い刺激閾値
ゆえ、通常の場合、それらが外来刺激によって興菫することは少ない。
しかし、様々な要因によって急性炎に陥った歯髄では、それらが自発
的かつ活発に反復して発火し、強い自発痛や心拍に一致した拍動痛を
覚えるようになる。A6線維と異なり、C線維は炎症下における低酸
素状態にも抵抗性が高いため、自発痛は長時間にわたって持続し得る4)。
こうした状況に陥った患者を、薬物療法を含め、すみやかに痛みから
解放することは歯科医師の重要な責務の一つである。
急性炎によって自発痛や誘発痛を生じている歯髄は、病理組織学的
にみて保存が困難であるため、局所麻酔下に全部除去(抜髄)するのが
原則である。しかしながら、急患で来院した場合など、抜髄処置を施
すための時間的余裕がないケースは多い。また、急性歯髄炎の症例で
は局所麻酔が奏効しにくいことが知られており、歯髄鎮静・鎮痛薬の
局所投与や、消炎鎮痛薬の経口投与で痛みをコントロールし、次回来
院時に抜髄処置を行うことも少なくない。
1)歯髄鎮静・鎮痛薬
フェノール製剤(液状フェノール、フェノール・カンフル)、フェノ
ール誘導体製剤(グアヤコール、パラクロロフェノール・グアヤコール、
パラクロロフエノールカンフル、クレオソート)、植物性揮発油類(ユ
ージノール製剤、チョウジ油)などが歯髄鎮静・鎮痛薬として用いら
れる。
2)経口鎮痛薬
急性歯髄炎の痛みに対して最もよく用いられる鎮痛薬は、非ステロ
イド性抗炎症薬(NSAlDs)である。NSAlDsは、プロスタグランジン
の生合成を阻害することにより、炎症反応を抑制して鎮痛作用を示す。
Bunczak-Reeら8)は、プロピオン酸系NSAlDsに属するフルルビプロ
フェン(フロベンなど)。その他には、アセトアミノ
フェンや漢方薬が使用される。
急性化膿性歯髄炎
急性化膿性歯髄炎による歯痛には酸性NSAlDsの内服が著効を示す。
その処方が可能な場合には上記例のほか、以下の処方例を採用できる。
いずれの場合でも短期間の服用で十分な効果が得られるが、可及的速
やかに歯内療法を施すこと。
■標準例(通常成人)
【ロキソプロフエンナトリウム(ロキソニン錠60mg)1日3回1回
1錠毎食後服用3日分】
■酸性NSAlDsを処方できない症例
【アセトアミノフェン(力ロナール錠200)1日3回1回2錠毎
食後服用、3日分】
コメント