抜髄の際に髄室に穿通し出血しましたが,根管口がわからない

 歯冠部の歯髄を確実に取り除くことが重要

臨床のポイント

抜髄の際にようやく髄室まで穿通したものの,果たして本当に適切に髄室まで達している

のか,もしかすると髄床底あるいはパーフォレーション(穿孔)しているのではない

かと,不安になってしまうことがよくあることでしょう.さらに髄室内から出血がみられる

と,根管口の探索どころか,その後どのように進めていっていいものか不安になってしまい

ます.

髄室内の出血により根管口がわからないということですが,まずはしっかり天蓋を除去し

てから止血を行うことで,根管口の探索が容易になります.髄室内の出血の主な原因は。歯

冠部歯髄の取り残しですが,パーフォレーションを起こした場合も出血が認められます.安

全で確実に髄室への穿通を行うためには,まずは術前の診査が大変重要になります.

②まずは適切な診査から

1)術前診査

髄室開拡に先立って,まずは患歯の歯髄腔の解剖学的形態を十分に理解しておく必要があ

ります.一般的に歯髄腔はその歯の外形に類似していますが,臨床においては齪蝕や歯周疾

患に罹患していることが多く,本来の歯髄腔の形態が変わっていることもあるので.適切に

撮影された術前のエックス線写真によって,的確な読影をしておかなければなりませ

ん.読影の際には,次の点に留意しましよう.

(1)歯冠部においては,歯髄腔の大きさや形態,髄角の位置齪蝕および修復物と髄室との関係等

(2)歯根部においては,歯根の本数,長さや太さ,彎曲の程度,根尖孔の大きさ,内部吸収および外部吸収の有無等

2)適切な髄室開拡

髄室開拡の窩洞外形は,髄室の形態を大臼歯では咬合面に,前歯部では舌側に写しだした

ものになります.安全かつ無菌的な処置を行うためには,ラバーダム防湿は必須な前処置に

なります.

その後,感染歯質の除去を行い,抜髄を確実に行うために,髄室の十分な開拡を行

います.窩洞外形からすべての根管口が直視でき,ファイル等が根管に直接到達できるよう.

髄室の側壁を丁寧に削除し,さらに天蓋および髄角の取り残しがないようにします

歯冠部歯髄の確実な除去には,適切な開拡が大変重要になります.

天蓋や髄角を取り残しておくと,歯冠部歯髄の一部が髄腔内に残存し,その歯髄から出血が続いてしまい,髄床底を確認することが困難になり,根管口の明示ができなくなってしまいます.

3)歯冠部歯髄の除去

適切な髄室開拡を行った後に,歯冠部歯髄の除去を行います.スプーンエキスカベータを

使用して,歯冠部歯髄をしっかり除去し,髄室内を次亜塩素酸ナトリウム液で十分に洗浄します.通常は,これで出血は止まり.根管口の明示を容易に行うことができます.

③それでも出血が治まらなかったら…

歯冠部歯髄の除去を確実に行っても,まだ出血がみられる場合は,以下の理由が考えられ

ます.

1)髄床底あるいは側壁へのパーフオレーション(穿孔)

パーフォレーションを起こしてしまった場合,慌てることなく,その部位や大きさなど,

病態を的確に診断し、可及的に迅速にかつ確実なパーフオレーシヨン部の封鎖を行う必要が

あります.

2)太い根尖孔(根未完成歯)

適切な髄室開拡を行っても,根尖孔が太い場合,根管からの出血がコントロールできない

ことがあります.その場合にも,可及的に歯髄組織を除去し,次亜塩素酸ナトリウム液で髄

室内,さらには根管内をしっかり洗浄します.超音波装置を使用して,選択的に歯髄組織を

除去することも有効です.根気よく次亜塩素酸ナトリウム液洗浄を繰り返すことにより,出血を止めることができます.

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