歯内治療中ですが,排膿が続いています.保存できるか

排膿が続いている理由は大きく二つです.どこかに取り除けていない細菌感

染がある.もしくはどこかに感染のルートがある.

⑪臨床のポイント

根管治療を適切に行っているにもかかわらず,根管内の排膿がとまらない,腫脹が消えな

い.というような症例では.二つの原因を考えます.

1)どこかに取り除けない細菌感染がある

穿通して根管を十二分に拡大形成したつもりでも,根管系は複雑なため取り除けていない

感染源が存在することがあります.マイクロスコープなどを用いて,見落としている根管が

ないかイスムスの中は十二分にキレイになっているのか。根管に感染が残っていたりしないか,よく検討してください.

2)どこかに感染のルートがある

歯根破折があると,根管内をいくらキレイにしても再感染をくりかえし,いつまでも排膿

が止まらないことがあります.歯根破折の状態によりますが、予後はあまり良くない

ので,患者さんと今後の治療方針についてよく相談してください.

歯周病が進行して患歯の周囲に深い歯間ポケットが存在するような症例(いわゆるエンド

ペリオ病変)では,歯周ポケットを通じて根尖孔からの感染を繰り返すことがあります.や

はり予後はあまり良くありません

②排膿や腫脹が続く理由

1)腫脹はすぐ消える

「おかげさまで先生に治療していただき,翌日には腫れが引いてきました」と治療

後に感謝されることがあります.しかし,根管治療を開始すると腫脹は速やかに消える

ので安心してはいけません.根管内から感染源を徹底的に除去しておかないと,根管充填後

にまた腫脹してきます.

2)ニッケルチタンファイルを使っても根管壁の30%は触ることができない

根管内は非常に複雑です.側枝やイスムスなどファイルの入らない部分もあります.しか

し,主根管でさえファイルのあたらない根管壁が約30%もあるという報告があります.こ

の部分の感染除去は難しく,化学的洗浄で除去を試みます.

3)側枝やイスムス内の感染は化学的洗浄法に頼らざるをえない

根管内は生体の外と内の間に存在する特殊な空間です.この部分は生体の防御反応(血流

など)が及ばないため,一旦感染させてしまうと生体が細菌を排除できない空間です.この

空間内から細菌を取り除くことができるのは歯科医師.

しかし,十二分な根管拡大を行っても100%の感染除去は難しく,側枝やイスムスを含めた器具の届かない部分に存在する細菌には化学的洗浄で対応するしかありません.

4)根尖孔外のバイオフィルム

適切な根管形成(根管拡大および根管洗浄)を行っても,根尖孔外のバイオフィルムにつ

いては除去することができません.根尖孔外のバイオフイルムが原因で排膿が止まら

ないような症例では外科的歯内療法の適応となります.

③化学的洗浄について

化学的洗浄には次亜塩素酸ナトリウム液を使用しますが,劇薬であるため根尖孔外に流出

しないように,また口腔内に漏れたりしないように注意が必要です.次亜塩素酸ナトリウム

液の効果は時間のファクターが効いてきますが,適切な根管拡大を行っていることも重要で

す.

側枝やイスムス,根尖分岐など最初からファイルが届かない部分に洗浄液を浸透させるた

めには,根管壁のスメア層を除去することも重要です.EDTA溶液を用いてスメア層を除去

してから.次亜塩素酸ナトリウム液で細部まで洗浄するのが有効です.

また,最近では超音波,音波,レーザーなどの補助装置によって,その効果を高めようとい

う研究も行われています.

④根尖孔外の細菌感染への対応

根尖孔外の細菌感染(バイオフィルム)が存在する場合には,根管治療では排膿が止まら

ないことがありますこのような症例では外科的歯内療法の適応となります.顕微鏡を用い

た外科的歯内療法(マイクロサージェリー)により成功率の高い処置を行ってください.

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