口腔カンジダ症

口腔カンジダ症
口腔Candidaは口腔常在微生物であり、免疫能の低下による日和見感染や、抗菌薬の長期連用や消毒薬の多用による常在菌叢の破綻による菌交代として口腔カンジダ症が生じる。Candidaが口腔内で増殖し口腔に定着した状態が口腔カンジダ症である。

1)白い口腔カンジダ症(偽膜性力ンジダ症)
ぬぐい取れる白いかすが付着し、除去した下はびらんや発赤、潰瘍が認められる病変である。副腎皮質ホルモンや抗生物質の長期連用患者、免疫能の低下した患者に多い。
口腔内の苦みと灼熱感を訴える。舌背に白苔と口蓋に点状の偽膜が認められる。

2)赤い口腔カンジダ症(紅斑性、萎縮性カンジダ症)
舌乳頭が消失し平滑舌となっていたり、発赤し灼熱感、疼痛や苦味を伴ったりする。口腔粘膜は粘膜下の毛細血管色を反映して赤いので紅斑性病変は見逃されやすい。周囲粘膜と比較して赤いことを見逃すと器質的変化がないとされ、いわゆる舌痛症と診断された結果、向精神薬が処方され難治化する。注意深い観察(視診)を行い周囲粘膜より赤くなっていることを確認することが重要である。舌痛を伴う疾患で、紅斑性口腔カンジダ症は舌痛や灼熱感が抗真菌薬により改善するが、いわゆる舌痛症(器質的な問題はない)ではCandidaとは関連しないので抗真菌薬は奏効しない。

3)厚くなる口腔カンジダ症(肥厚性カンジダ症、カンジダ性白板)
粘膜が厚く硬くなる疾患で、腫瘤や白板を形成する。腫瘍を疑い生検や切除が施行されることも多い。病理学的にCandidaが認められ、抗真菌薬にて改善される症例は肥厚性口腔カンジダ症であるが、悪性疾患との鑑別で生検が必要なこともある。

4)ささくれる、ただれる(潰瘍性)口腔カンジダ症
潰瘍性口腔カンジダ症、剥離性(ささくれる)口唇炎、□角炎がある。副腎皮質ホルモン軟膏を塗布して-時的によくなったが再発するものはカンジダ検査を行い、陽性であれば抗真菌薬を使用すると劇的に改善する。ただし、潰瘍やびらんでは舌がんや悪性化しやすい紅板症との鑑別診断が重要で専門医の診察が必要である。

5)その他の口腔カンジダ症
正中菱形舌炎は舌背中央部の菱形の赤い病変で、発生期の奇形とされてきたが、Candida性疾患で抗真菌薬が奏効する。咬合痛を訴え義歯床下粘膜に発赤が認められる義歯性口腔カンジダ症では、義歯不適合による外傷性疾患とされ、義歯調整のみが行われ難治化していることが多い。このような症例ではCandida検査で陽性であれば抗真菌薬にて劇的に改善する。義歯はその表面形状からカンジダが付着しやすく口腔Candidaの原因となっていることがある。

口腔白板症や口腔扁平苔癬では、副腎皮質ホルモン軟膏が長期連用された結果、口腔カンジダ症を併発していることがある。このような症例でもカンジダ検査を行う必要がある。
悪性腫瘍の治療では、化学療法や放射線治療で口腔粘膜炎や口腔乾燥が生じやすい。口腔粘膜炎では粘膜のバリアーが破綻するのでCandidaは容易に粘膜下へ侵入し、口腔カンジダ症が生じる。また、口腔乾燥では唾液による自浄作用が低下し、口腔カンジダ症になりやすい。

本邦で口腔カンジダ症に保険適応をもつ抗真菌薬は、①ファンギゾンシロップ、②フロリードゲル経口用、③イトリゾールカプセル50、④イトリ
ゾール内用液がある。

薬剤選択法のポイントと処方例
■剤型により選択する。
①口腔内にまんべんなく使用するには液剤が有効である。
【アムホテリシンBシロップ(ファンギゾンシロップ)
1日3回、1回1mLを舌で患部に広く行き渡らせ、できるだけ長く含んだ後嚥下する。8日分】刺激が強くて使用できないときは、コップ1/4の水(約50mL)に1mL入れて希釈して使用する。口腔や咽頭部に広くゆきわたり、効果が高い。原液(1回1mL、毎食後)を使用すると高い効果が得られるが、刺激が強く痛みを感じることがある。
【イトラコナゾール内用液1日1回、20mL、口腔内に行きわたらせて飲み下す(下痢が生じたら1回10mLを1日2回朝、夕食後)。
口腔に含み行きわたらせた後に飲み下す。Candidaへの直接作用と腸管からの血中移行による作用で二重に効果をあらわし効果が高い。
血中への移行は速やかで肥厚性口腔カンジダ症にも高い効果を示す。しかし、添加されたヒドロキシプロピルーβ-シクロデキストリンにより下痢が生じやすいので注意が必要である。

②ゲル剤は口唇口角や口腔局所に長時間高濃度で滞留するので効果が高い。【ミコナゾールゲル(フロリードゲル経口用2%)毎食後と寝る前に口腔内にまんべんなく塗り広げて飲み下す。】口内、口角、口唇に塗布する。義歯装着者では義歯の粘膜面に塗布すると高い効果が得られる。

全身疾患をもった患者では併用薬に注意する

併用薬としての頻度が高い、トリアゾラム(ハルシオン、トリアゾラム、ハルラック、パルレオン、アスコマーナ、カムリトン、トリアラム、他)は併用禁忌である。併用すると、トリアゾラムの
血中濃度が3倍、排泄半減期が6倍になる。イトリゾールやフロリ
ードゲル経口用とハルシオンとの併用で重篤な循環器への為害作
用の症例も報告されているので注意が必要である。トリアゾラム内服
中症例ではイトリソ一ル内用液、フロリードゲル経口用を処方す
る際は睡眠導入剤の変更の依頼が必要となる。超短時間型睡眠導入剤
のアモバン、マイスリーは代謝酵素がCYP3AのみでなくCYP2C9、
CYP1A2と複数のため、薬剤濃度の著しい上昇がないため禁忌では
ない。
■ワーファリンの併用には要注意
抗血栓薬であるワーファリンはアゾール系薬とは併用注意薬である
が、フロリードゲル経口用2%との併用で体内出血の報告があるの
で併用は控えるべきである。

コメント