口腔扁平苔癬

扁平苔癬
■本態:皮層や粘膜に生じる角化異常を伴う炎症性疾患である。
■疫学:口腔の罹患率は0.02~0.2%程度といわれ、女性にやや多い。
好発年齢は40~50歳代と報告されている。
■好発部位:歯冠、あるいは咬合面に相対する頬粘膜に好発し、左右
対称に生じることも多い。舌や口唇、口蓋、歯肉にも生じる。
■他覚症状:一般的には肉眼的に幅1~2mmのレース状、網状、線状、
環状を呈する白色病変を認め、その周囲には発赤がみられる。形は日
時の経過に伴って変化し、二次的にびらんや潰瘍を形成することがある。
病変の性状は発生部位により多少異なり、頬粘膜では白色の主病変
以外に、発赤やびらん、潰瘍、ときに小水庖を伴うことがあり、病変
が長期間持続すると、色素沈着をみたり、癖痕が形成されたりするこ
ともある。舌では、小豆大~大豆大の境界明瞭な白色斑状でやや隆起
することもある。病変部の舌乳頭は消失し、触るとやや硬く痛みを伴
う。歯肉の病変では、び漫性の紅潮と萎縮がみられる。
■自覚症状:症状が軽いときには、□の中の荒れ、不快感、味覚異常、
灼熱感などとして自覚される。症状が強くなると、食物がしみたり、
接触痛を生じたり、出血するようになる。
■経過:一般に難治性で’|曼性の経過をたどり、病脳期間は1~10年
程度のものが多いとされる。網状型は自然治癒することもあるが、潰
瘍型では期待できない。また’|曼性炎症を繰り返すために、まれにがん
化することもある。
■原因:自己免疫疾患、歯科用金属などに対するアレルギー、遺伝的
素因、ストレスなどの精神的要因、代謝障害のほか、外傷性、細菌性、
ウイルス性、糸状菌性、中毒性、神経または神経原性要因も考えられ
ているが、正確な原因は不明である。促進因子として口腔内清掃不良、
喫煙などがあげられている。
■鑑別診断:扁平上皮がん、白板症、尋常性天庖瘡多形性紅斑など
との鑑別が必要である。
■治療:原因が不明で確実な治療法がないために、自覚症状がなけれ
ば積極的な治療は不要ともいわれる。しかし、まれにがん化すること
があるので、経過観察は必要である。一方、しみる、痛いといった症
状があれば、対症療法として薬物療法により症状の緩和を図るととも
に、その原因と考えられる要因の除去に努める

まず試みるべき薬物療法


ステロイド軟膏
デキサメタゾン(アフタゾロン口腔用軟膏0.1%、デキサルチン口腔用軟膏)
トリアムシノロンアセトニド(ケナログ口腔用軟膏0.1%)、など


含嗽剤
ベンゼドニウム塩化物(ネオステリングリーンうがい液0.2%)
アズレンスルホン酸(アズノールうがい液4%)、など


①ステロイド軟膏の長期使用時には口腔カンジダ症の発症に注意する
とともに、症状が改善しないときは他の療法を考慮する。
②含嗽剤使用に併せて歯面清掃を徹底する。
③冠形態不良や金属アレルギーが原因として疑われる症例では、薬物療法とともに保存治療を選択肢に加える。

その他の薬物療法
1)工トレチナート(チガソン)〔諸治療が無効だった場合、および
重症時に適応あり〕
2)セファランチン(セファランチン*
3)タクロリムス軟胄(プロトピック軟胄0.1%)*
4)イルソグラジンマレイン酸塩(ガスロンN)*
5)アロプリノール(ザイロリック)*
6)漢方薬(十全大補湯、補中益気湯、麦門冬湯、黄連解毒湯、小柴
胡湯など)*が用いられる。*保険適応外

留意点:
①口腔扁平苔癬は、治療が長期に及んだり、緩解と再発を繰り返すこ
とが多いことをあらかじめ患者に説明しておく。
②漫然と薬物療法(とくにステロイド軟盲の使用)は、口腔カンジダ症
を始めとする副作用の発現を招きやすいので厳に慎む(軽快時には使
用中止、増悪時には使用再開を旨とする)。
③すべての患者に対し歯面清掃を徹底する。
④歯冠形態不良、金属アレルギーが原因として疑われる症例では、歯
科治療を選択肢に加える。

薬物療法以外の治療法
1)歯面清掃
病変に接する歯の清掃状態が不良の場合、症状の悪化、かつ難治性
となるため、すべての扁平苔癬患者でまず行うべき治療法である。
2)歯の形態修正、研磨
発症部位に近接して鋭縁な歯があれば、形態修正、研磨により機械
的刺激が加わらないようにする。
3)金属アレルギー治療
口腔扁平苔癬は、銀歯や入れ歯の金属バネなど、歯科金属に接する
部位の頬の粘膜歯肉、舌に発症することが多く、その理由として金
属アレルギー、溶け出した金属イオン、などが考えられている。一定
の期間、薬物療法を続けても治療効果が上がらず、病変に接する部位
に金属性のインレー、クラウン、義歯がある場合には皮虐のパッチテ
ストを行う。その結果、金属アレルギーの関与が強く疑われる場合に
は、撤去、再治療を検討する

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