1)ウイルス性疾患
ウイルスが原因で引き起こされる病態を示し、原因ウイルスの種類
によってその症状は異なる。歯科医師との関わりの深いものは、概ね
下記の4つである。
①皮膚・口腔粘膜に症状が現れるもの:単純庖疹(単純へルペスウイルス;HSV)、
帯状庖疹(水痘・帯状庖疹ウイルス;VZV)、
ヘルパンギーナ、
手足口病(エンテロウイルス、コクサッキーウイルス)など。
②全身症状と同時に口腔にも症状を示すもの:後天性免疫不全症候群(ヒト免疫不全ウイルス;HlV)による口腔カンジダ症力ポジ肉腫など。
③唾液腺や咽頭・扁桃に症状を示す伝染性疾患:流行性耳下腺炎(ムンプスウイルス)、
伝染性単核(ウイルス;EBV、サイトメガロウイルス;CMV)など。
④感染症としてのウイルス性疾患:B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)など。
HSV:herpessimplexvirus、VZV:varicellazostervlrus、
EV:enterovirus、HlV:humanimmunodeficiencyvlrus、
Muv:Mumpsvirus、EBV:Epstein-Barrvirus、CMV:cytome9alovirus,
HBV:hepatitisBvirus、HCV:hepatitisCvirus
歯科医師が診断・治療を行う必要があるのは、主に口腔粘膜に小水庖形成を示すヘルペスウイルスによる疾患である。
HSVやVZVは初期感染を経て神経節に潜伏し、ストレスや免疫力低下によってウイル
スが再活性化すると、その神経支配領域の粘膜や皮膚に症状を起こす。
そのため皮層科や内科など関連他科との連携も重要である。
薬物療法としては、抗ヘルペスウイルス薬(以下、抗ヘルペス薬)による治療が一般的で、症状の重症度や全身状態によって軟膏、内服薬、点滴静注薬を選択する。また小水庖は容易に破裂するため、びらん潰瘍を広範囲に形成しやすい。そのため含嗽薬や口腔衛生管理、二次
感染予防のための抗菌薬投与、局所麻酔薬含有の含嗽薬による疼痛緩
和や栄養管理が症状に合わせて行われる。
他のウイルス性疾患も、原因ウイルスに対する薬物療法や対症療法
が行われるが本項ではへルペスウイルス感染症について解説する。
急性庖疹性歯肉口内炎は、単純へルペスウイルスの初
感染によって発症するが、生後6カ月以降の乳幼児に多く、不顕性感
染が90%以上とされる。三叉神経節に潜伏し、回帰発症するものが
単純庖疹(口唇へルペス)で成人に多い。口唇の皮虐粘膜移行部に限局
した小水庖が生じる。口腔内に発症する場合もある。
HSV-llは性器へルペスの原因ウイルスとなる。
水痘は、水痘.帯状庖疹ウイルス(VZV)の初感染で、三叉神経節
や脊髄後神経節に潜伏感染する。帯状庖疹は免疫低下を契機にウイル
スが再活性化すると、神経支配領域の皮膚、粘膜に帯状に小水庖が形
成される。口腔顔面領域では三叉神経領域に症状が現れる。顔面神経
に発生した場合は、末梢性顔面神経麻痒や外耳道や耳介部の庖疹め
まいや耳鳴り、難聴を合併する(RamsayHunt症候群)。
2)ウイルス学的検査
ウイルスの分離ウイルスのDNA検出、抗原の検出、抗体価の測定などで感染の有無を確認する。
抗体検査に、中和試験、蛍光抗体法、ELlSA法などがあり、急性期と回復期のペア血清で抗体価の4倍以上の上昇があれば陽性と診断される。ただし、抗ヘルペス薬の投与は可及的早期に行う必要があるため、臨床症状から的確に判断することが必要である。
3)抗ウイルス薬
経口抗ヘルペス薬として、アシクロビル(ゾビラツクス錠)、バラ
シクロビル(バルトレックス錠)、ファムシクロビル(ファムビル錠)
の3種類がある。ゾビラックスには40%穎粒、バルトレックス50%
穎粒もある。点滴静注薬にはアシクロビル(ゾビラックス)やビダラ
ビン(ビダラビン)がある。作用は細胞内でのヘルペスウイルスの
DNA合成を阻害する。バラシクロビル、ファムシクロビルは、それ
ぞれアシクロビル、ペンシクロビルのプロドラッグで内服後、消化管
からの吸収効率が高められている。軟膏としてアシクロビル(ゾビラッ
クス軟膏5%)、ビダラビン(アラセナーA軟膏3%・クリーム3%)
がある。なお「口唇へルペスの再発」に適応を限定したOTC医薬品が
市販されている。
単純疱疹(ヘルベス性口内炎、口唇炎)
■軽症の場合、通常は10日程度で自然治癒する。
【アシクロビル(ゾビラツクス軟實5%1本591日数回塗布)】
または
【ビダラビン(アラセナーA軟實3%)1本29,59,1091日1~4
回塗布】
■中等度から重度の場合
【アシクロビル(ゾビラックス)200mg1回1錠1日5回5日間】
または
【バラシクロビル(バルトレックス)500mg1回1錠1日2回5日間】
または
【ファムシクロビル(フアムビル)250mg1回1錠1日3回5日間】
上記に加えて、びらんや潰瘍部に対する外用薬を補助的に使用する。
帯状疱疹
■軽度・中等度の症例
【バラシクロビル(バルトレツクス)500mg1回2錠1日3回7日間】
または
【ファムシクロビル(ファムビル)250mg1回2錠1日3回7日間】
または
【アシクロビル(ゾビラツクス)200mg1回4錠1日5回7日間】
■重度の場合や免疫低下の高リスク群
【アシクロビル(ゾビラックス)点滴静注用の
補液で希釈、1日3回、1時間以上かけて点滴静注7日間】
上記に加えて、症状に応じて口腔内のびらん・潰瘍に対して含嗽薬
【アズレンスルホン酸ナトリウム水和物、重曹(含嗽用ハチアズレ)】に
よる含嗽や、【リドカイン塩酸塩(4%キシロカイン)5~10mLと含
嗽用ハチアズレを精製水で希釈】で適宜含嗽
を行う。皮膚症状に対しては、抗菌薬含有軟盲の塗布を行う
投与する際の注意点
①抗ヘルペス薬は腎排泄型のため、腎疾患や腎機能低下の患者、高齢
者では薬剤の排泄が遅れがちであり、投与間隔を延長するなどの慎重
な投与計画が必要。排泄が悪いと振戦やめまい、傾眠傾向を示す。
②投与の決定にはクレアチニン・クリアランスに応じて投与を
行う。日本腎臓病薬物療法学会はCr-Cl(<10)では、アシク
ロビルを1日1~2回、バラシクロビルでは、単純庖疹では1回250
mg(24時間毎)、帯状庖疹では、1回250mg(12時間毎)を推奨。
③抗ヘルペス薬の使用の際、十分な水分補給と尿舅確保(とくにクレ
アチニン・クリアランスが低値の場合)について十分に説明しておく。
④透析患者には、単純庖疹ではアシクロビル(ゾビラックス)1錠200mg、
帯状庖疹では800mgを1日1~2回、透析日には透析後に投与する。
⑤妊婦に対しての安全性は確立していないために、治療上の有益性が
危険性を上回ると判断される場合のみ投与する。授乳婦は投与中の授
乳を避ける。
⑥低出生体重児および新生児に対する安全性は確立していない。
⑦悪性腫瘍や膠原病などの基礎疾患を有する場合で免疫が低下してい
る場合には、入院のうえ、点滴静注を行う。
⑧日和見感染で発症するため、免疫低下に関してその背景にある非顕
性疾患についても注意が必要。
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