抜歯後痛・術後痛

抜歯後痛・術後痛には種々あるが、

①抜歯あるいは手術直後に麻酔覚醒とともにみられる急性痛、

②抜歯2~3日後から生じるドライソケット

③術後に生じる慢性疼痛に分けて述べる。


●抜歯後・術後の急性痛に対する薬物療法
1)抜歯後・術後の急性痛
抜歯後・術後の急性痛は、局所の組織損傷に伴う反応性炎症に起因
する。とくに炎症の過程でアラキドン酸から生成されるプロスタグラ
ンジンが急性痛を生じる発痛物質であり、このプロスタグランジンの
合成を抑制するのが、酸性非ステロイド性抗炎症薬NSAlDsである。NSAlDsには、酸性
NSAlDs以外に非酸性NSAlDs、塩基性NSAlDsがある


2)プロスタグランジン
アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素が作用す
るとプロスタグランジンが生成されるが、この酵素にはCOX-1と
COX-2の2種類があり、それぞれ生成されるプロスタグランジンの
種類および作用部位が異なる。
①このうち、抜歯後痛・術後痛に関連するのは、炎症性プロスタグラ
ンジンであるPGE2やPG’2であり、COX-2の作用で生成されるプロス
タグランジンである。
②一方、COX-1の作用によって生成されるプロスタグランジンは生
理的プロスタグランジンとも呼ばれ、胄粘膜保護、血流・血圧の維持、
血小板凝集に関与する。酸性NSAlDsはCOX-1、COX-2の両者の作
用を強力に阻害するため、炎症性プロスタグランジンのみならず生理
的プロスタグランジンの生成も抑制する。そのため、胄潰瘍や腎血流
減少による腎障害などの副作用が現れる。

③選択的COX-2阻害薬は、COX-2の作用のみを選択的に阻害して炎
症性プロスタグランジンの生成を抑制する目的で開発され、効果も認
められるが、同時に血栓症のリスクが高まる結果となった。これは、
COX-2阻害により、血小板凝集抑制作用をもつPG’2が抑制される一方、
COX-1が血小板凝集作用をもつトロンボキサンA2を生成するため、
結果として血小板凝集作用が強く出現するためと考えられている。


3)普通抜歯や低侵襲手術の術後で反応性炎症が少ない場合
非酸性NSAlDsであるアセトアミノフェンが推奨される。アセトア
ミノフェンは、COX阻害作用がなく安全性が高い。


4)埋伏智歯抜去や中程度以上の侵襄を伴う手術後
術後の炎症症状が懸念される場合は、消炎作用と鎮痛作用が強い酸
性NSAlDsが有効である。


5)術後感染を合併している場合
必ず起炎菌に有効な抗菌薬を投与する。化膿性炎症に対して、抗菌
薬を併用せずに鎮痛薬のみを継続すると、炎症は増悪あるいは難治性
となる。


6)NSAlDsの添付文書
添付文言では、消化性潰瘍や菫篤な血液異常、菫篤な肝障害、菫篤
な腎障害菫篤な心機能不全、アスピリン喘息の既往のある患者に対
しては原則禁忌となっている。


7)妊婦や授乳婦、高齢者
酸性NSAlDsは、胎児に対する安全性が確立していないため、アセ
トアミノフエンや塩墓’|牛NSAlDsが適する。また、高齢者においても、
冑潰瘍や腎障害の副作用が発現しやすいためアセトアミノフェンや塩
基性NSAlDsが適する。

普通抜歯や低侵襲手術
処方例
【アセトアミノフェン(カロナール錠300)疼痛時】
または
【ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン錠60mg)1回120mg
3回分疼痛時】


埋伏智歯抜去後など術後炎症が強いと予想される場合
【ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン錠60mg)1回60mg1日
3回3日分】
【ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン錠25mg)1回25mg1日3回
3日分】
または
【セレコキシブ(セレコツクス錠200mg)初回400mg2回目以降
200mg1日2回3日分】


ドライソケットに対する薬物療法
1)ドライソケットは、抜歯窩の骨面が表在性に感染を伴う骨壊死の
状態に陥り、血餅や肉芽で満たされずに骨表面が露出した状態である
周囲組織に炎症症状はみられず自発痛も認めないが、抜歯窩の著明な接触痛を訴える。
2)長く慢性炎症が継続し、周囲歯槽骨の硬化性骨炎を併発している
歯の抜去後や、抜歯後に二次的感染により血餅が脱落した場合に生じ
る。前者では歯槽硬線の硬化が著明である


3)食渣が圧入・停滞しやすく、これが肉芽形成を障害することから、生理食塩水で抜歯窩を洗浄し、キシロカインゼリーや抗生物質含有軟膏の填入あるいはパックにより抜歯窩の清潔安静を図り、肉芽形成を促す。また、含嗽剤を処方し清潔保持に努める。


5)上記の保存療法で改善がみられない場合は、局所麻酔下に抜歯窩
再掻爬を行い、壊死層の除去と再血餅化を図る。漫然と経過観察を行
うと、きわめて長期の経過をとり、骨炎、骨髄炎に移行する場合もある。


処方例
【イソジンガーグル液7%30mL2~4mLを60mLの水に希釈し
毎食後にうがい】
または
【アズノールうがい液4%5mL1回押し切り分または5~7滴
を約100mLの水で希釈し、毎食後にうがい

抜歯後・術後の慢性痛に対する薬物療法
1)抜歯後・術後に創部の治癒が良好にもかかわらず、慢性の頑固な
瘤痛を訴える場合がある。まず、局所的原因の究明に努めるが、不明
な場合は神経障害性瘤痛や異常痛のこともある。
2)神経障害性瘤痛には、プレガバリン(リリカ)が適応となる。
3)強い抜歯後痛には、アセトアミノフエンとトラマドールの配合薬
(トラムセット配合錠)が有効な場合もある。〔抜歯後の瘻痛の適応〕


4)術後痛に対して漢方薬が有効な場合もある。立効散、葛根湯、桂
枝加巾附湯、五苓散などが使用されるが、歯科適応があるのは立効散
のみである。


処方例
【プレガバリン(リリカカプセル75mg)1回75mg1日2回経口投与
1週間以上かけて300mgまで増量可能1日600mgが限度】〔神経障
害性瘻痛の適応〕
または
【トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(トラムセット⑧
配合錠)1回2錠4時間以上あけて1日8錠まで】

コメント