小児への薬物療法
小児への薬物療法を有効に奏効させるには、小児の成長・発育によ
る薬物代謝を背景に薬物の吸収、代謝、排泄など、生体機能の年齢的
な薬理学的特性を理解する必要がある。
1)薬物の吸収と排泄
経□で摂取された薬物は、一般に消化管内で溶解され小腸粘膜を通じて体内に吸収されるが、
とくに乳児では胄からの排泄時間が長い、胄液のPHが低いなどで、薬物吸収能が成人より緩徐であるために、経口よりも座薬や注射薬を用いる。
幼児では経口で問題ない。
肝代謝型の薬物(マクロライド系抗菌薬アニリン系鎮痛解熱薬)は
低年齢児(乳児)では代謝能が低いため、薬物効果が成人より強く現れ
副作用が起こりやすい。セフェム系抗菌薬、ペニシリンなど腎臓排泄
型の薬物の体内動態は腎機能に関連して左右される。
2)薬用量の算出
薬用量の算出では年齢、体重、体表面積を基準にしたものがあるが、
年齢からの算出法は身長や体重に個体差があること、体重からの算出
法は薬用舅が少なくなる傾向にあるなどで、一般には体表面積から算
出するAugsbergerの式が使用される。これは、熱量喪失量は体表面
積に比例し、心拍室、腎糸球体濾過三、循環血液量は体表面積と平衡
関係にあることなどによる。算出が煩雑なためvonHamackの換算表
が用いられる。
●小児歯科で投薬頻度の高い薬物
■抗菌薬
1)抗菌薬の選択
患児の状態を考慮して、感染病巣部位検索や原因菌検索、さらに抗
菌薬の体内動態や副作用を加味したうえで適切な抗菌薬を選択するこ
とが原則。投与経路の選択は小児の場合、同系統の抗菌薬であっても
臨床治験の未実施や症例不足のために、小児への適応がない抗菌薬が
あるので、特殊な感染症や他剤性感染症などの場合を除き、小児や新
生児に対する用法、用量の確立している薬剤を選択する。
しかし急性の化膿性疾患では、原因菌を分離培養して病原菌に有効
な抗菌薬を選択する時間がなく、緊急性を要することが多いため、そ
の場合は広域性抗菌薬を第一選択とする。
使用頻度の高いものは、
細菌細胞壁合成阻害薬のペニシリン系(サワシリン)、セフェム系(メイアクト)、
細菌タンパク合成阻害薬のマクロライド系(ジョサマイシン)などがある。
2)抗菌薬の副作用
一般的な抗菌薬の副作用として、耐性菌の出現、常在細菌叢への影
響抗菌薬以外の薬剤との相互作用などがあげられる。抗菌薬による
副作用は投与によらない濃度非依存的副作用と、血中濃度に依存し
て発現する副作用に分けられる。前者には過敏反応、腎障害などがあ
り、免疫学的な機序により発現し、後者では血中ないし組織内濃度が
高くなると発現するために、投与臺血中濃度の調節が必要である。
また小児においては抗菌薬経口投与時の便性の変化に注意が必要とな
る。併用する可能性の高い鎮痛解熱薬整腸薬の使用法にも注意が必
要である。
■鎮痛薬
小児に対しての鎮痛薬投与は、副作用のリスクを考えて必要時のみ
に限って処方する屯用での使用を原則とする。
アセトアミノフェンには市販の解熱鎮痛薬、総合感冒薬にも配合される薬剤で比較的安全性が高く、
小児や妊産婦にも用いられる。妊婦に対しては我が国の添付
文吉では「妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない……」と表
記されているが、FDA(米国食品医薬品局)、ADEC(オーストラリ
ア医薬品評価委員会)ではそれぞれグレードB、グレードAとされてお
り、安全に投与が可能と評価されている。
授乳の際の影響については、アセトアミノフエンは乳児推定摂取三
(母乳中移行量/母親投与三)が0.1%~1.85%程度であり、安全な量
とされている。
その他の比較的安全な小児用鎮痛薬としてはNSAlDsに分類される
アントラニル酸系製剤メフエナム酸(ポンタール)などがある。
一方
サリチル酸系製剤、アスピリンは小児ではライ症候群との関連が指摘されており原則禁忌となってる。
またイブプロヘンは症状の不顕性化の懸念で小児には使用されない。
表③にアセトアミノフエンの体重による1回投与目安量を示した。
表③小児のアセトアミノフェン投与目安量
体菫 1回量(アセトアミノフェンとして)
5kg 50~75mg
10kg 100~150mg
20kg 200~300mg
30kg 300~450mg
●前投薬
前投薬は一般には全身麻酔前の気道分泌の抑制、催眠・鎮静薬とし
て用いられるが、歯科外来においては障害児、特に自閉症児の通院時
や治療前の興奮を抑制し、治療が少しでも円滑に進むことを目的に用
いる。
適応症としては他に歯科治療に病的な不安、恐怖感を抱く小児、
それらが原因して嘔吐反射が著しい小児、脳性麻痺児などである。
比較的よく用いられる前投薬は、
マイナートランキライザー(精神安定剤:ジアゼパム、ブロマゼパム)が用いられる。これらは穏やか
な作用の心の安定薬で、不安や緊張感を和らげ気持ちを落ち着かせる。
筋緊張性緩和作用もあり、筋肉のこわばりやツッパリをほぐす作用がある。
・投与方法と注意
①通院時の興菫を軽減するためには、家を出る30分前に服用する。
②通院時に問題がなければ、治療前30分に服用させる。
③保護者に処置後の注意をよく伝えておく。
④急性症状の時には使用しない。
⑤用法は4~12歳は、1日量ジアゼパムとして2~10mgを分割投与
となっているので、1回としては3~5mgを投与する。
●急性歯槽骨炎と薬物療法
急性歯槽骨炎は主にう蝕から化膿性根尖性歯周炎が進行した場合に
生じる。著しい自発痛、打診痛、動揺と原因歯の根尖部周囲歯肉に発
赤腫脹が認められる。一般に歯周組織の炎症は、歯根膜、歯肉、歯槽
骨に及び、顎骨の骨膜炎、骨髄炎を引き起こすが、小児の場合には、
①炎症に対する抵抗力が弱いため、しばしば重篤な症状に陥いりやすい
②骨がすう疎であるために、上顎では炎症が眼窩部付近、下顎では□
腔底にまで波及しやすい
③炎症は歯胚にまで影響を与える場合があるなどの特徴を有する。
知っておきたい投薬
小児への投薬に適した剤型
・内服薬には、散剤、錠剤、カプセル剤、液状、顆粒剤、ドライシロップ剤などがある
■乳児では、散剤、シロップ剤
幼児では、穎粒剤、散剤、シロップ剤
学童では、穎粒剤、散剤、錠剤
投与回数
・症状により、毎食後、4,6,8,12時間ごとに投与する。
急性重症の場合は初回量を多く投与するあるいは点滴投与
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