腎透析患者への投薬 expert

慢性腎不全透析療法の現状

長期透析による主な全身合併症として、①動脈硬化、②貧血、③心不
全、④骨病変、⑤アミロイドーシス、⑥感染症があげられ、顎口腔領
域においても様々な合併症が報告されている。
①動脈硬化
動脈硬化は、尿毒素などの蛋白代謝産物の透析と循環障害、カルシ
ウム・リンなどの骨代謝異常を伴い、体液量の増加などが動脈硬化の
促進に影響し、動脈硬化が進行すると心筋梗塞や脳梗塞の原因となる。
②貧血
貧血は、腎臓で産生される造血ホルモンである工リスロポエチン
(EPO)の産生障害によって生じる。
③心不全
体中に過剰な水分貯留状態が続くと心臓に負担がかかり、心妻拡大
を呈して心不全が生じる。
④骨病変
骨病変名は、カルシウム・リンの代謝障害や活性型ビタミンDの不
足による二次性副甲状腺機能冗進症を中心とした透析性骨症を伴う。
⑤アミロイドーシス
β2-ミクログロブリンによって産生されるアミロイドが、各臓器に
沈着して手根管症候群などを発症する。四肢関節と同様に顎関節や唾
液腺にもアミロイドが沈着すると考えられている。
⑥感染症
感染症は、’|曼性に生じている低蛋白血症や貧血、リンパ総数の減少、
T細胞機能低下による細胞性免疫機能の低下と代謝異常などによって
生じやすい。加えて透析患者の高齢化、糖尿病患者の増加、院内感染
の機会が多いなどである。
とくに、歯や口腔における合併症として顎骨においては骨髄炎の発症
頻度が高くなり、周術期における感染に対する配慮が必要である。
これらを背景に、透析患者への顎口腔領域の疾患、とくに抗菌薬の
投与法について述べる。


●透析患者への薬物療法
透析患者における薬剤の体内分布は、水溶性の薬物は透析によって
除去されやすく、脂溶性薬物は除去されにくい。
蛋白結合率が高い薬物は透析によって除去されにくく、透析性が低
い特徴がある。蛋白結合率が低い薬物は透析されやすいため、透
析後に追加投与が必要となる。
抗菌薬についても代謝される臓器や、おのおのの未変化体での排泄
率や透析性によって投与量や透析間隔の指標が決められている。

一般に安全性の高いβラクタム系の抗菌薬である

セフェムやペニシリン系抗菌薬が用いられることが多いが、

種類によっては蛋白結合率や代謝
が異なるため注意が必要である。ミノサイクリンやクリンダマイシン系
は肝臓で代謝され、追加投与の必要はないとされている。
MRSAに対して用いられれるバンコマイシンなどは、未変化体とし
て腎排泄であり、透析性は比較的高いが、
透析患者では薬剤の半減期は著しく延長するため、薬剤血中濃度測定
を行いつつ、投与室を調整するtherapeuticd「ugmonitoring(TDM)
が必要である。
透析によるコントロールと合併症については、患者個々に異なるた
め、透析医との綿密な医療連携が必須である。とくに透析導入期は維
持透析として安定していないため、観血的処置を行う際は注意を要する。

顎口腔疾患に対する観血的処置における抗菌薬の投与


抜歯後の抗菌薬投与
抜歯後の感染予防としては、βラクタム系抗菌薬が用いられる。抜
歯などの観血的処置は透析日を避けて行い、感染予防に対してはセ
フエム系あるいはペニシリン系抗菌薬を用いることが一般である。

抜歯後に処方する鎮痛薬の多くは、胆汁排泄型〔肝代謝〕で蛋白結合
率が高く、透析によって除去されやすいため常用量でよい。麻酔薬で
あるリドカインなど肝代謝で減呈の必要はない。


●観血的治療の抗菌薬投与上の注意点
①透析患者は慢性腎不全を伴っている。
②おおむね週3回の血液透析療法を昼間あるいは夜間に受けている。
1回の透析時間は5時間である。
③透析中はヘパリンなどの抗凝固剤が投与されている。ヘパリンは肝
臓で約5時間で代謝されるが、透析日の観血的処置は避けたほうが
望ましい。当日処置が必要な場合は、局所へパリン化を透析医に依
頼する。
④貧血、低蛋白血症を伴って免疫機能の低下を生じている場合があり
観血的処置後は抗菌薬の投与が必要である。
⑤透析から透析の間、腎排泄がないため薬剤の血中濃度が高くなる。


●消炎鎮痛薬
いずれの消炎鎮痛薬およびアセトアミノフェンは腎機能に影響を与
えるため、頓用が望ましい。
比較的安全といわれている薬剤は、アセトアミノフェン、アスピリ
ンである。
COX-2選択性消炎鎮痛薬は、腎機能への影響について一定の見解
が得られていない。



知っておきたい投薬・キーポイント


観血的処置後の感染予防に対する抗菌薬投与
セフェム系またはペニシリン系

消炎鎮痛剤
アセトアミノフェン
カロナール1回400mg○回分 疼痛時 1日3回まで

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