歯科恐怖症 expert

歯科治療恐怖症と原因
歯科治療恐怖症とは、歯科治療に対する恐’布感が非常に強く、歯科
医院に足を踏み入れることもできない、歯科用ユニットに座れない、
タービン音などで体が硬直する、開□しようとすると吐き気を催すな
どの異常な行動を示す状態を指し、歯科心身症の-つである。
そして、幼少時の強制的歯科治療によるトラウマ、過去の歯科治療
時の不快な体験等、このような過去の体験が、学習理論に基づき増幅・
増強され発症すると考えられる。


●歯科治療恐怖症患者への投薬
通常、歯科医師が歯科治療恐怖症と診断された患者に対し投薬する
ことは稀で、心療内科や精神科からの投薬がほとんどと思われる。本
項ではそれら他医療機関で投薬されている比較的頻度の高い薬剤を
挙げ、解説する。


抗うつ薬
抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質である「セロトニン」や「ノルアド
レナリン」の不足によって引き起こされるうつ病に対し、これらを解
消し、正常に近い状態に戻す働きがある。


■三環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬は脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンとセ
ロトニンの神経終末への再取り込みを阻害することで効果が発現する。
また、三環系抗うつ薬は、様々な神経伝達物質からの情報を受け取
る受容体の働きを遮断する作用があり、アセチルコリン受容体の遮断
により□の渇き、便秘、目のかすみ、排尿障害などの抗コリン作用が、
アドレナリンα1受容体の遮断により起立性低血圧、めまい、鎮静が、
ヒスタミンH1受容体の遮断により眠気、体菫増加、鎮静が発現する。


■四環系抗うつ薬
化学構造が三環系では3つの環があるのに対して、4つの環が存在
するため四環系と呼ばれ、三環系抗うつ薬の畠|」作用が軽減された。

アセチルコリン受容体遮断作用が弱いため、抗コリン性の副作用は三環
系抗うつ薬よりも軽度だが、ヒスタミンH1受容体遮断作用が強いため、
眠気や鎮静を起こしやすい。三環系抗うつ薬にはない作用機序として
セロトニンの5-HT2受容体遮断作用があり、抗うつ効果と関連して
いると考えられている。
併用注意:アドレナリンと併用でアドレナリンの効果増強


■選択的セロトニン再取り込み阻害薬
(SSR|;SelectiveSerotoninReuptakelnhibitors)
シナプスにおけるセロトニンの再吸収を抑制することでうつ症状を
改善する。肝毒性、心・血管畠|」作用や、鎮静作用、口の渇き.便秘な
ど抗コリン作用が原因と思われる副作用は減少したが、セロトニン症
候群、賦活症候群、SSR|離脱症候群(中断症候群)などの副作用がみ
られる。


■セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
(SNR|;Serotonin&NoradrenalineReuptakelnhibitors)
シナプスにおけるセロトニンとノルアドレナリンの再吸収を阻害す
ることで、相対的に濃度が高まりうつ症状を改善する。不安障害、強
迫性障害、ADHDなどでも処方されることがある。ノルアドレナリン
は興菫神経を刺激し、やる気や気分を向上させる効果もある。
併用注意:アドレナリンと併用でアドレナリンの効果増強


マイナートランキライザー
■アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)
心身症(冑・十二指腸潰瘍過敏性腸症候群、自律神経失調症)にお
ける身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害に対して効果あり。
視床下部、扁桃核を含む大脳辺縁系に対する抑制作用で葛藤行動緩
解作用、馴化作用、鎮静作用を現す。
畠リ作用に依存性、急激な減量ないし中止により離脱症状(痙箪、せ
ん妄、振戦不眠、不安)、刺激興菫などあり。
■ジアゼパム(セルシン)
神経症における不安・緊張・抑うつ、うつ病における不安・緊張、
心身症(消化器疾患、循環器疾患、自律神経失調症更年期障害、腰
痛症、頸肩腕症候群)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ
に対して効果あり。大脳辺縁系に特異的に作用し、正常な意識・行動
に影響を及ぼさずに馴化、鎮静作用、筋弛緩作用(筋の緊張を緩解)、
抗痙掌作用を現す。
副作用に大星連用により薬物依存、急激な減量ないし中止により離
脱症状(痙掌、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想)、舌根沈下に
よる気道閉塞などがある。


ベンゾジアゼピン系持続性心身安定剤
ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)
神経症における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害、心身症(胄・十二
指腸潰瘍、慢性胄炎、過敏性腸症候群、自律神経失調症)における不安・
緊張・抑うつ・睡眠障害に対して効果あり。ベンゾジアゼピン系薬剤
に共通した中枢神経作用を有する。
畠|」作用に大量連用により薬物依存、急激な減三ないし中止により離
脱症状(痙掌、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想など)がある。
チエノジアゼピン系精神安定剤
■エチゾラム(デパス)
神経症における不安・緊張・抑うつ・神経衰弱症状・睡眠障害、う
つ病における不安・緊張・睡眠障害、心身症(高血圧症、胄・十二指
腸潰瘍)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害に
対して効果あり。脳内のベンゾジアゼピン受容体に高い親和性を有し
ノルアドレナリンの再取り込みも抑制する作用がある。
畠|」作用に依存性、呼吸抑制、炭酸ガスナルコーシス、悪性症候群(発
熱、強度の筋強剛、嚥下困難頻脈など)、横紋筋融解症がある。


●歯科医院における対応
歯科疾患が急性炎症を伴い、気道浮腫など生死に関係するような事
態であれば、半強制的手段(全身麻酔など)による処置が必要となる。
時間的余裕がある場合には、歯科治療から逃避するという不適応行動
を変革する行動療法や、薬剤を使用する鎮静法(吸入鎮静法、静脈内
鎮静法)を試みるのが一般的である。


行動療法
■系統的脱感作法
歯科治療時の不安要素を小さいものから並べた不安階層表を作り、
不安の小さいもの(タービンの音など)をしばらくの間想像してもらい、
不安が起こったところでリラックスさせる。このとき、不安がなくな
れば、その状況はクリアされたと考え、次にもう少し不安を引き起こ
す場面を選んでいく。徐々に状況を不安階層表の大きな環境場面まで
導き、この患者の不安を制止できれば治療されたことになる。Tell、
Show、DC法ともいわれ、歯科治療に際し器具などを見せ、説明し、やっ
て見せることで歯科治療に対する恐怖心を緩和させる方法。
■曝露法
不安、恐’布など嫌な感|冑をもたらす状況にあえて直面させ、最初は
嫌な感情・衝動が激しくても、それが徐々に弱まり平気になっていく。
恐怖と不安を最大限に体験し、最悪の状況を耐えることを覚え、恐怖
症にとらわれている力を緩めることでこれらを克服する方法。


鎮静法
■笑気吸入鎮静法
低濃度笑気(30%以下)と酸素の混合ガスを吸入させることにより、
笑気のもつ鎮静作用でリラックスした状態が得られ、歯科治療に対す
る恐怖心を緩和させようとする方法。
吸入は笑気15%濃度から開始し、患者の様子を見ながら5%ずつ濃
度を上げていく。30%(20~30%)で至適鎮静状態が得られる。処
置の終了後は数分間100%酸素を吸入させると、よりすみやかで爽快
な回復を得ることができる。
■静脈内鎮静法
ミダゾラム(ドルミカム)、プロポフオール(1%ディプリバン注-キット:全身麻酔薬)(2~6mg/kg/hr)がよく用いられる。また、
デクスメデトミジン(プレセデックス)も最近、非挿管症例の局所麻
酔下鎮静での保険適応が認められた薬剤である。
ミダゾラムは初回三005mg/kgをボーラス投与し、患者の鎮静状態
に合わせて30分ごとに1mg追加投与する。鎮静状態の解除および呼
吸抑制の改善にベンゾジアゼピン受容体拮抗薬のフルマゼニル(初回
0.2mg緩徐に静注)がある。
プロポフオールは6mg/kg/hrで持続投与を開始し、至適鎮静レベル
に達したら2~6mg/kg/hrで投与三を調節する。プロポフォールの投
与には微呈持続投与が可能なシリンジポンプか、TClポンプ
が使用される(血圧低下、舌根沈下等患者の全身状態を観察すること)。
青斑核のα2受容体を刺激して鎮静作用を得るデクスメデトミジン
は鎮痛作用も有する。鎮静法の使用三は6g/kg/hrで10分間持続投
与(初期負荷)を開始し、至適鎮静レベルに達したら0.2~0.7g/kg/
hrで維持する。なおデクスメデトミジンは初期負荷のとき、血圧が~と
昇することがあり、最初から維持濃度で投与する方法もある


●歯科治療恐怖症患者に対する基本姿勢
本症の成因が、過去における歯科治療になんらかの因果が関係して
いることから、患者の心情を理解し、受容、共感、支持、保証の基本
姿勢を常に心がける必要がある。


歯科医院における歯科治療恐怖症に対する鎮静法の選択


1.笑気吸入鎮静法
・鼻呼吸はできるか
■術者の指示に従えるか
.中耳炎、気胸、腸閉塞眼科手術(ガスタンポナーデ)などの閉
鎖腔はないか
■妊娠の可能性は


2.静脈内鎮静法

■ミダゾラム
禁忌:本剤または成分に過敏症の既往、急性狭隅角緑内障、
重症筋無力症、HlVプロテアーゼ阻害剤、HlV逆転写酵素
阻害剤服用患者
・プロボフォール
禁忌:本剤または成分に過敏症の既往、妊婦、小児

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