まずトレー試適中のどの段階で痛いのか,また口腔内のどの部位を圧迫して
痛いのかを確認しましょう.それによって適切な対応法を選びます.
印象採得が楽しい患者さんはおりません
作製する技工物などよりも大きなトレーが,お口に入るのですからむしろ辛いはずです.
また,印象採得に慣れている方ばかりではなく,人生初という方も多いことでしょう.なに
より既製トレーは,辺縁が薄く硬い金属製などで,決して優しい器具ではないといえます.
したがって術者は,印象採得そのものが患者さんに「苦痛」を与える行為であることを常
に意識する必要があります.そのうえで,苦痛を少しでも減らすための気配りと工夫を行い
ましよう.それではトレー試適時の時系列に沿って,対応法を述べていきます.
②トレーを試適する前に
まず患者さんに印象採得の経験の有無をお聞きしてから,顔面,口腔内をチェックしてお
きます.
例えば,口角炎や口唇の荒れ,あるいは口腔内のアフタ性口内炎,歯肉腫脹そして
骨隆起)などの存在は,いずれも試適時の痛みに直結する原因となります.
これらが確認された場合には,手指による触診も加えて,患者さんにあらかじめご説明しておきましょう.
またU字,V字など,歯列がどのような形態かを把握しておくことも重要です.当然です
が,術前の医療面接と視診は,すべての診療行為の基本的事項となります.
③トレーを口腔内に挿入する際の痛み
1)トレーが口唇などに触れて痛い場合:患者さんの口唇にトレーが触れて。あるいは擦過
することによって痛みが生じていませんか?特に空気が乾燥している冬季などは,口唇が
荒れていて痛む場合があります.その際は,事前にトレーを少しだけ濡らしておくか,
あるいは患者さんの口唇も湿らせてみましょう.
代わりにワセリンやココアバターを用いてもかまいませんが,余剰分は印象面/模型面
の汚染にもつながりますので,使用時には極薄に塗布するように注意します.
2)トレー挿入時の痛み:トレー挿入時に痛みを訴える場合は.患者さんが最大開口状態ではないですか?これは,口唇や粘膜に「ゆるみ」がまったくない状態です.
その際には,最大開口状態から少しだけ脱力していただくと,「ゆるみ」が得られることに
つながります.「ゆるみ」に対して,トレーを把持していない側の手指で口唇を拡げてからト
レーを回転させて挿入すると,余裕を持ってトレーの挿入が可能となります.
④トレーを挿入した後に歯列および顎堤に試適する際の痛み
トレー挿入後.続いて歯列や顎堤への適合状態を調べますが.その際に痛みを訴える場合
があります.痛む部位を伺って,ミラーなどによる視診、あるいは触診を行って確認します.
1)歯が圧迫されて痛い場合:歯列不正をお持ちの場合には,トレー辺縁が唇側あるいは舌
側転位している部位に当たってしまうことが多々あります.その際には,トレーのサイズを
一段階大きくすることが必要です.また,ワイヤー製トレーの場合は,手指で変形させて調
整し,試適を行います.
2)粘膜が圧迫されて痛い場合:粘膜が被薄で,直下に骨が存在することによって痛みを訴
える場合が最も多いかと思います.特に年配の方に限らず咬合圧の強い患者さんでは,上顎
の口蓋中央部,下顎は小臼歯舌側部付近(図3)に骨隆起が生じやすくなります骨隆起がある場合は,トレーの圧接を注意深く行わなければならず,これは試適だけでなく印象採得時も同様です
骨隆起に接する場合には,ユーティリティーワックスを事前に貼付しておくと、保護が行
えます.これは,粘膜自体が脆弱で口内炎などが生じやすい忠者さんにも有効です.
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