③嘔吐反射とは?
医学的には延髄内嘔吐中枢の反射運動であり,元来は消化器内の異物を排出するための生
体防御反応のひとつとされています.「絞扼反射」や「異常絞扼反射」と呼称する場合もある
ようです.生理反射なので,誰もが有しているのですが,特定の患者さんに生じやすい肘り
事といえます.また,歯科診療全般に際して「えずく」ことも多々ある.
②患者さん側の要因と対策は?
嘔吐反射は反射運動として生じ,軟口蓋、咽頭、舌後縁部などに触覚刺激が働くことが原
因となります.しかし,それより問題となるのが心因性によるものです.歯科治療に不安や
恐怖心を抱いている場合は.印象採得の巧拙に関わらず,嘔吐反射を惹起させてしまいます.
また心因性の場合は,過去の経験や味覚・嗅覚などの感覚によっても,影響を受けるとされ
ています.特に過去の歯科治療体験などに関しては,医療面接時に確認をしておきましょう.
心因性嘔吐反射への対応としては,まずは脱感作,暴露療法などの行動療法あるいはマ
イナートランキライザーの前投与も有効です.さらには吸入鎮静法.静脈内鎮静法
などの精神鎮静法も必要に応じて活用すべきでしょう.
③術者側の要因と対策は?
印象採得は嘔吐反射を有する患者さんにとって苦痛となりますが,その強弱は術者の手技
にも影響を受けます.
はじめに。歯ブラシなどを口腔内に挿入可能かどうかを確かめます.体位としては座位が望ましく,その際に嘔吐反射の有無を尋ねます.
確認方法としては,トレーを撤去して患者さんで該当部分を触診してみます.
表面麻酔剤を該当部位に少量塗布します.
トレーの試適が可能になったら,一種のトレーニングとして患者さんに「大丈夫,型取り
できますね」と元気付けの声掛けを行って,前傾姿勢をとっていただきます.
この前傾姿勢は舌根沈下や唾液貯留が抑えられ,鼻呼吸が容易になるという利点があります.
そして、洗口液などによる含嗽も,配合される香料やアルコール類が有効に働きます.
ついで概形印象本番となりますが
まずは下顎から採得した方が少ない負担となります.
続く上顎の採得時には,特にアルジネート印象材は標準混水比あるいは少し固めに練和し,
トレー後縁部には少なめに盛り付けます.後方に溢れ出ないようにトレーを圧接し,先程の
前傾姿勢とゆるやかな鼻呼吸をとっていただき,印象材硬化後はただちにトレーを撤去しま
す.
⑧さらなるワンポイント
加えてご紹介します.まずはトレーですが,歯列弓が小さめの方には,前歯部用
トレーも有効.例えば矯正治療で便宜抜去されている方の場合は,前歯部用ト
レーとユーティリティワックスの組合せが有用です.また舌後縁が接触することで嘔吐反射
を誘発する際には,下顎用トレーを用いて上顎歯列の印象採得を行うという方法もあります.
例えば花粉症の時期には,鼻呼吸を行えない場合も多く見受けられます.その際には,い
びき治療などに用いる鼻孔拡張テープを試してみましょう.
ところで,飢蝕歯を切削する際に独特の臭いがあることを意識されていますか?これを
忌避する患者さんも意外に多く,メントールなどアロマの活用も精神的リラックスに有用です
なにより,親しみのある態度・言葉づかいに裏打ちされた充分なコミュニケーションと信
頼関係の構築はすべての歯科治療の基本です.心因性ストレス抑制のためにも有効ですので,臨床において常に心掛けましよう“
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