歯肉縁下に達する根面齪蝕を認める場合

保存か抜歯かを判断したうえで,即日処置のみで対応するべきか,あるいは A 複数回の処置が可能なのか,それによって計画が左右される.


なぜ処置回数を考慮するのか?
根面齪蝕は歯肉退縮に継発しますが,恩者さん側の状態はカリエスリスクを含めて,個々で大きく異なっています.例えば,歯科診療室での処置なのか訪問診療における処置なのか,あるいは全身疾患をお持ちか,管理がなされているかなどまた,修復治療なのか補綴治療かなどで治療計画が複雑に左右されていきます.
なかでも,根面う蝕は歯周疾想や全身状態からの影響が大きいために,処置回数の設定は大問題となってきます


②まず考えなくてはならないこと
まず初めに検査を行いますが,プロービング,エックス線撮影などに加えて.歯髄電気診を適宜応用します.そのうえで,歯周組織の状態や患者さんのQOLなどを考慮して,患歯を
保存するのか抜歯するのかを選択しなければなりませんまた,全身状態などを加味して総合的に保存の可否について判断する必要があります.

たとえ歯科医学的に抜歯が正しく
ても,諸事を考慮すると保存すべきというケースも決して珍しくないことを念頭においてく
ださい.


③保存可能な場合の考え方
1)即日修復の場合
次の分岐点は即日修復が必要か,あるいは可能かという事柄です.

例えば介護施設や患者さんのご自宅などへの訪問診療を考慮した場合は.治療回数は可及的に少ないことが重要視されますので.可能ならば即日修復を選択します.実施の際には基本的に通常の修復処置に準じて,ウェッジなどによる歯肉排除とマトリックスを併用しての隔壁法を工夫しますが,
限られた環境下で使用可能な修復器材,

例えばエキスカベーターやグラスアイオノマーセメ
ントなどの使用も有用です.
しかし,施設におられる要介護の患者さんでも必要に応じてブラッシング指導などが許容されるのであれば,歯周治療を先行させて歯肉状態を改善した後に,修復するという選択肢が考えられるわけです.なお修復に際しては
「劣化した修復は再修復よりも補修修復を」というポリシーに則って接着を活かした補修修復を行うことが理にかなっています.
ただし即日修復が可能でも,前述の根而齪蝕が生じた原因に対しては,修復後の適切かつ継続的なメインテナンスによる口腔衛生指導が必要となることには要注意です


2)複数回処置の場合
複数回処置が可能であれば,歯周治療を優先させた後に修復治療・補綴治療が実施できるので,通常の齪蝕に対する治療計画と大きな差異はありません.インレー修復などがあります。ただし,窩洞外形あるいはフイニッシュラインの取り扱いに注意を要します.
一方,失活歯の場合は根面齪蝕によるコロナルリーケージの危険性を考慮する必要があります.残根状態でも適切な暫間被覆冠を用意して,歯内治療と歯周治療を平行していくことを考慮してください.


④保存不可能な場合の考え方
根面齪蝕は慢性齪蝕が通例ですので,患者さんは罹患を気づいていない,あるいは重要視していない場合も多く,また多歯面から進行していく症例も多いことが知られています.対象歯が失活歯の場合も多く,見た目以上に進行していることによって保存不可という診断を下すことも多いでしょうしかし忠者さんにとっては,その歯がいきなり抜歯されてしまうということに即座にはご納得いただけない場合もあります.また患歯は主治医よりも高齢な場合が多々あります.事前には,診断に基づいた充分な説明を患者さんご本人,ご家族あるいは介護スタッフの方に心掛けましょう.
なお,例え抜歯を選択する場合においても,根而齪蝕を形成してしまった要因は残りますので歯周治療も必要ですし,その後の義歯作製などの欠損補綴治療の流れも考慮しておく必要があります.


⑤いろいろなオプション=引き出しを
患者さんによっては,積極的なう蝕治療を望まない方もいらっしゃいます.その際は,非侵襲的治療として,フシ化ジアンミン銀溶液塗布やレジンコーティング法を採用し,フッ化
物応用を併用していくのも効果的.また,う蝕を一度に完全除
去することが必ずしも正しいとは限らない場合もあります.

例えば,長時間の開口が苦痛であるとか,水平位に馴染めずに座位を求められることもあるでしょう.その際は,短時間で
行えるエキスカベーターによるう蝕歯質削除と,タンニン・フッ化物配合のポリカルボキシレートセメントや水硬性セメントによる仮封を複数回繰り返すことで,治療していくという
方法もあります

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