痛いからといって,必ずしもすぐに抜髄することが良い結果を招くとは限りません.
痛みの程度,患歯の状態患者の希望,診療時間の余裕などを考盧し判断しましょう.
痛み止めを飲んで、一度、経過観察をする場合も考えられます。
今日抜髄をした方が良い場合
以下のような状況では,今日抜髄をした方が良いでしょう.ただし,患者が抜髄の必要性
を理解し同意していること,かつ歯科医師側に余裕があることが前提.
抜髄を延期する場合は,その理由を患者に説明し理解して頂き,必要に応じ
鎮痛薬の投与,
咬合調整を行います.
1)症状や不安が強い
すでに痛みで苦しんでいる,休診日を前にして不安が強い,処置をしないと今後さらに痛
みが増す可能性が高い,といった場合は着手してあげた方が互いに安心です.
2)審美的な回復が急がれる
外傷やう蝕により突然歯質を大きく喪失した前歯では,早期に抜髄し歯冠修復を行い審美
性を回復するほうが好ましい.
3)期限がある
受験留学,海外赴任、入院等の予定がある場合は,それまでに痛みから解放し,歯冠修復
を完了することが好ましい.
②問診,検査で考慮すべきポイント
患者に「痛い」と言われれば対応が必要です.しかし,その思いだけですぐさま処置を開始することが,思わぬ結果を招くこともあります.以下の事項も考盧し本当に今から抜髄することが最良の結果につながるのかを総合的に判断する
1)今,時間はあるか?
(1)自分に余裕はあるか?
時間や心の余裕がない状態での抜髄は、焦りから失敗をしがちです.時間の経過とともに
急性期はいずれ慢性期となり痛みはいつか軽減しますが,過剰切削や穿孔や器具破折は残り
ます.患者の苦痛を今すぐ取り除いてあげようと思ったあなたの善意は。逆に患者さんとあ
なたを後々まで苦しめることになるかもしれません.
(2)予約患者に迷惑をかけていないか?
急患でお見えの場合は,予約時間通りにいらしている患者に迷惑をかけないようにしなけ
ればなりません.「時間がなかったが,可哀そうなので抜髄した.」「次の患者さんをお待たせ
しており急いでいた.」失敗は,技術の不足よりも,そんな“付度’から生まれる場合がある.
2)痛みはどの程度か?
「痛い」と言われると,すぐ抜髄してあげたくなります.しかし,よくよく伺ってみると
さほどではなく緊急性に乏しいこともあります.
逆に痛みが強い場合は緊急性がありますが,局所麻酔が効かずかえって痛い思いをさせ
てしまう,不十分な疼痛制御下での侵害刺激の繰り返しにより中枢性感作を引き起こしてし
まう可能性があります.
自発痛が強い時に行った抜髄では,自発痛は消退して
も咬合痛が長引くことがしばしばあります.
事前に,そのような状態が生じる可能性があることを説明し,理解して頂いてから着手しましょう.
3)患者は理解しているか?
抜髄は不可逆な処置です.患者の理解が乏しい場合は,抜髄を延期すべきです.
最近は齪蝕罹患率が低下したせいか,歯科治療の経験や知識が乏しいまま大人になる方が
増えたように思います.
そうした方でも,隣接面う蝕や歯冠破折に起因する歯髄炎により来院され,いきなり抜髄になる場合.彼らは基礎知識が少ないので,歯科医師がいつも通りの説明をしても,思ったような反応が得られません.逆に,ネットの情報で頭がいっぱいになってお越しになることもあります.彼らにとっては「神経を抜く」ということは,こちらが想像する以上に人生初の大事件なのです
それでは,抜髄を何度も経験されている方なら全く問題がないかというと,「この歯だけは
神経を残しておきたい.」と強く願い.抜髄を受け入れられないことがあります.このような
場合は,適切な処置であったとしても「自分は希望しなかったのに神経を抜かれてしまっ
た.」と感じられがちです.もし,術後に何かマイナスな事象が生じた際には,担当医へ不満
がむけられる恐れがあります.
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