歯内治療を始める予定ですが,この歯の予後はどうか.

初回根管治療歯か,既根管治療歯か,によって成功率は変わります
その他にも術前の徴候によって予後が悪いことが予想される場合もあります.


臨床のポイント
根管治療の成功率は決して低くありませんが,抜髄や歯髄壊死の歯で初めて根管治療が必
要となる初回根管治療歯の方が,以前に根管治療を行っている既根管治療歯よりも成功率は高くなります.また以前の治療で根管を逸脱している根管形成が行われていると成功率は下がってしまいます.
術前の診査で,限局性の深い歯周ポケットがある歯は要注意です.

歯根破折を生じていると根管治療をしても予後は極めて悪く,抜歯になる可能性が高くなります.
フェルールが十分に確保できないような歯は予後が悪くなります.

術前に深いポストが入っており,健全歯質が十分あると思えないような歯は要注意です.
根尖病変の大きさはあまり関係ありませんが,病変の経過期間が歯質の感染に影響する可
能性があります.

いつから腫れているのか,何回根管治療を繰り返しているのか,よく問診
してください.
しっかり診査(問診,口腔内診査エックス線診査など)を行い,患歯の根管治療を行うに
あたって予想される成功率やリスクなどをしっかり説明し,同意を得たうえで治療を開始する。


②予後を左右する可能性のある術前のチェック項目
1)初回根管治療歯か,既根管治療歯か
初回根管治療歯で根尖に病変がなければ成功率は高い,

初回根管治療歯でも根尖病変があれば成功率はやや高い,

再根管治療歯ではやや高い

という報告があります.
また,

再根管治療歯の場合に以前の治療で根管を逸脱した根管形成をしていると成功率が
低くなるという報告もあります.根管系は非常に複雑であるため,一旦根管内
を感染させてしまうと除去は非常に難しい.


2)限局性の深い歯周ポケット
限局性の深い歯周ポケットが存在するような症例では,歯根破折を疑います.

歯周病との合併症(エンドペリオ病変)の可能性もありますが,その場合も予後はあまりよくあ
りません.

唯一.歯根破折もなく,歯周病も関与していない症例では,たまたま生体の弱い部分が歯周ポケットであったため,歯周ポケットを通じて排膿路ができることがあります.この場合の予後は決して悪くありません.


3)フェルールの有無
補綴処置を行う際にフェルールの量が問題となります.再根管治療を行う際には,再補綴

のことも考慮する必要があり,十分なフェルールを確保できないような症例では予後に不安
が残ります.


4)歯根表面および根尖孔外の感染
根尖病変が存在する歯は初回根管治療においても成功率が下がることは前述のとおりです.

その理由として考えられることの一つに,根管治療で取り除けない細菌感染の存在があ
ります.何度も根管治療を繰り返していたり,腫脹や排膿を放置して歯根表面のセメント質
や根尖孔外に感染が及んでいる可能性がある歯では予後が悪くなり,外科的歯内療法の併用
が必要となることもあります.


③エンドペリオ病変
術前に深い歯周ポケットが存在する症例で,歯周病が関与している場合には根管治療だけでは治癒せず,歯周病の治療も必要になります.

いわゆるエンドペリオ病変として,歯周病による骨欠損が根尖にまで広がっているような症例ではやはり予後は悪いことが予想されます.


補綴処置が可能かどうか
歯を残したいのは,患者も歯科医師も同じ気持ちです.しかし,無理な根管治療をして,そ
の後の補綴処置に耐えられないような歯を残すのが必ずしも良いとは言えません.

根管治療補綴処置の成功率なと・を加味し,患者には複数の選択肢を提示し,リスクを含めて治療
方針を説明し,患者に納得のいく治療を提供してください.

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