どちらでなければならないということはありません.それぞれには特徴があ
り,それらを適切に理解し状況に応じて臨床応用すればよいと思います.それぞれの利点と欠点をしっかり理解することが大切です.
⑪陶材焼付冠とオールセラミックスクラウンとの違いと特徴
陶材焼付冠とオールセラミックスクラウンの臨床応用は,それぞれの特徴を理解すること
から始まります.オールセラミックスクラウンと陶材焼付冠の大きな違いは,金属使用の有
無だといえます.
陶材焼付冠は金属をフレームに使用するため、金属色を遮蔽しなければ審美性を確立できませ
ん.よって、陶材焼付冠は,天然歯に比べ透明感に劣りますが,金属を使用するため強度を兼
ね備えています.
オールセラミックスクラウンは,セラミックスのみにて作製される補綴装置です.そのため天然歯に近い透明感を再現しやすい構造となっています.以前は,強度に問題があるといわれてきましたが高強度なジルコニアを併用したりすることで、問題を解決できています。
②それぞれを詳しく
1)陶材焼付鋳造冠
陶材焼付鋳造冠は,作製するにあたり従来の練成印象材を用いて印象採得を行います.こ
れにより石膏作業用模型を作製して製作完成させます.
作製方法は,
まず金属のフレームワークを鋳造し,
そのフレームワークへ金属色を遮蔽するためにオペーク陶材を築盛します.その後,
歯冠色を再現するため主に長石系の陶材を順次築盛し,場合によっては
ステイニング,
グレージングを行い完成させます.
陶材焼付鋳造冠は,金属の丈夫さとセラミックスの審美性を兼ね備えた補綴装置といえます.
また単冠のみならず少数歯欠損から多数歯欠損へなどあらゆる症例に対応可能です.
大規模補綴治療の場合には,製作過程で起こる誤差からマージン部などの適合性へ不安が生じる場合があります.
このような場合には,初めにセパレートして作製したパーツをろう付けすることで適合性の整・確認が可能です.また,歴史がある補綴装置であるため臨床応用にあたり安心感があるといえるでしょう.
しかし現在では,使用頻度がかなり減少してきているようです.これは,患者の審美的要求の高まりがあげられます.
陶材焼付鋳造冠は,金属を使用するため歯肉がその影響で黒く見えたり,天然歯の透明感が再現できず審美性が低下する場合があります.また金属アレルギーの心配も,いわれています.さらに金属代の高騰もその理由にあげられます.
2)オールセラミックスクラウン
オールセラミックスクラウンは,近年その存在感をますます増しています.
その理由は,良好な審美性にあります.オールセラミックスクラウンは金属を使用しない
ことで,下地となる象牙質の色調を補綴装置に反映させ,より天然歯に近い状態を再現でき
ます.
使用できるセラミックも多様で,長石系セラミックス,リューサイト系セラミックス,
ケイ酸リチウム系セラミックスなどのシリカ系セラミックスがあげられます.これらは特に
審美性に優れ,主として単冠に使用されてきました.
シリカ系セラミックスは,おおむね良好な経過を示しています.シリカ系セラミックスに加え,近年ではジルコニアセラミックス(以下ジルコニア)が注目を集めています.従来のジルコニアは,高強度であるものの明度の高い白色であるため,フレーム材として使用されてきました.
最近のジルコニアは審美性が向上し、ジルコニア単体でも使用可能となりました.審美性に長けた高透光性ジルコニアが開発されたことで,前歯部へも適応可能となっています.ジルコニアは,物性に優れるため破折に対する危険性が低く結晶粒も小さいため対合歯も摩耗させにくいといわれています.
現在ジルコニアは,従来の用法に加えて単冠からブリッジまでのあらゆる症例へ臨床応用されています.
セラミックス材料は,デジタル技術の発展にともない存在感を期してきました.これらは,従来の印象採得法に加えて,intraoralscanner(以下IOS)を用いたデジタル印象採得により時には石膏作業用模型なくして補綴装置を作製することが可能となっています.
症例と診療環境によっては.デジタル技術を使用することで.支台歯形成から補綴装置装着までが1日で完了可能です.このことは,患者に対し高い審美性とともに印象採得に伴う不快感からの解放や来院数冶療時間の減少などを提供できるようになりました.
IOSを使用した際のジルコニアブリッジは,4ユニットブリッジまでの適合性が現在のところ臨床上容認できるとされています.よってそれを超える補綴装置の作製には,注意が必要といえます.
臨床のポイント
陶材焼付鋳造冠は,前述の性質上多数歯の補綴処置に利点を生かせると思われます.
現在は,
単冠や小規模ブリッジまでが治療の対象とすれば審美的や材料学的な観点から各種オールセラミックス製の補綴装置を選択することが多いといえます.審美領域である前歯部には,審美性の向上している高透光性ジルコニアも存在しますが,シリカ系セラミックスが以前からよく使われていたため,そちらを単体もしくはジルコニアフレームに築盛することで使用することもある
ただし,咬合などの問題で強度が必要な症例では単体による高透光性ジルコニアの選択が安心だと思われます.
逆に臼歯部は,咬合の観点からジルコニア単体での選択が安心です.しかし咬合に問題がなく,審美性を追求するならシリカ系セラミックスの選択も有効でしょう.
③陶材焼付鋳造冠とオールセラミックスクラウンの装着に関して
陶材焼付鋳造冠は,強度を有するためグラスアイオノマーセメントなどの非接着性セメン
トによる合着がなされてきました近年では二次う蝕の防止を考慮し,唾液などによる溶解
の心配が少ない接着性レジンセメントを用いて接着させることが多くなっています.
オールセラミックスクラウンは,シリカ系セラミックスの場合に患歯と強固に接着させることで強度を保つため接着性レジンセメントによる接着が必須となります.
ジルコニアの場合は,それ自体に強度があるため非接着性セメントの使用も可能といわれますが,やはり二次齪蝕抑制などを考慮し接着性レジンセメント、による接着が好ましいでしょう.
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