齪蝕が深く,IPCの適応と判断しました.齪蝕の除去はどこまでやれば良いか

齪蝕感染象牙質の切削除去を続けると,露髄のリスクがあると主観的に判断

した時点で,感染象牙質を残したまま切削をストップします.

⑪IPC(暫間的間接覆髄法)

IPCは通称で,学術的には「暫間的間接覆髄法」です.

②IPCの臨床的有用性

露髄を防げるので.抜髄を避けることができます.残した齪蝕感染象牙質に水酸化カルシ

ウム製剤を貼付することで.感染象牙質の無菌化と再石灰化をうながします.また,術後3

から6カ月で歯髄腔に第三象牙質(修復象牙質)が新生添加されます

③IPCの適応症

臨床的に健康な歯髄,または歯髄炎が認められても可逆性・一過性であることが前提で

す.自発痛やその既往がある場合は適応とならないので注意してください.また,齪窩と歯

髄の間が近接している場合,そこに象牙質が介在していることが要件です.エックス線検査

で齪蝕が歯髄に近接している場合,実際の齪蝕病変はエックス検査で認められるより進行し

ている場合が多くあります.

この場合,う蝕感染象牙質をすべて切削除去しようとすると,

露髄の危険性が非常に高まり,結果的に抜髄を選択せざるを得なくなります.このような症

例がIPCの適応症です.対象年齢層は,学童期,青年期,壮年期ですが,中・高齢期における

IPCの有用性を否定するものではありません.

③臨床のボイント

・生活歯で自発揃やその既往がないこと,また覆髄後に長期にわたり確実な仮封ができる

窩洞であることも重要な条件です.

・エックス線検査で。齪窩と歯髄の間に象牙質が介在することを確認します

・麻酔を使用するか否かは術者の判断に委ねます.患者の意向も確認します.

・術野はラバーダム(困難な場合は簡易防湿)で.清潔に保ちます.

・う蝕感染象牙質の切削除去は。鋭利なスプーンエキスカベータまたは低回転(回転が目

で追えるほどの低速)のラウンドバーで行います.象牙質の硬さを触知しながら,慎重

に切削を進めるには,スプーンエキスカベータの使用が勧められます.

・感染象牙質の除去は露髄させないよう細心の注意を払って行い.最終的に歯髄に近接す

る部位の齪蝕感染象牙質だけを残します.覆髄後に長期にわたり確実な仮封を行います

・切削をストップしたら,痛みを与えないよう水洗乾燥しますが,この時,検知液の色が

残っていても次のステップに進んでかまいません.

歯内治療

.残したう蝕感染象牙質面はすべて覆髄剤(水酸化カルシウム製剤,Dycal,Dentsply/

Caulk)で覆います.

・窩洞を確実に仮封するために術前処理が不要な臼歯部充填用のグラスアイオノマー

セメントなどを用います.

・術直後は,一過性の冷水痛や不快感(ズキズキではないがジーンとした感じ)が生じる

場合があることを患者に説明しておきます.必要に応じて鎮痛薬を処方するのも良いで

しょう.

・約1週間後に,歯髄の生死を含め術後経過を確認します.強い歯髄症状が持続している

場合はすぐ抜髄に移行します.

・3カ月以上経過後に自発痛冷水痛,打診痛,根尖部に圧痛がないこと,また,電気歯

髄検査により歯髄が生活していること,エックス線検査で根尖部に透過像が認められな

いことなどを確認します.

・仮封を注意深く除去後,覆髄剤をスプーンエキスカベータなどで除去し,残置させた齪

蝕感染象牙質を露出させます.露出させた感染象牙質が乾燥していて,スプーンエキス

カベータや探針で、破くなっていることが確認できれば最終修復に移行します.

・露出した感染象牙質が乾燥・硬化していない場合,上記の操作を繰り返します.操作を

4回まで繰り返して効果がなければ歯内療法に移行します.

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