正常か否かは抜去した患歯の状態によって異なります.異常というのは合併
症を生じている状態となりますので,起こりうる合併症の有無を一つずつ確認します。
③臨床のポイント
抜歯は観血手術であり,術後の評価は必須です.前歯の残痕を抜歯した後と,深い埋伏智
歯を抜去した後では術後の状態はまるで違います.抜歯時に想定した範囲内であれば経過は
正常,想定外であれば異常といえるでしょう.
大きく腫れたとしても埋伏智歯を抜去する際に「骨の削去量が多かったので想定内です・経過そのものは順調なので心配ありません.」と患者さんに説明することも経過観察時の重要な医療行為です.
②チェックすべきポイント
、出血の有無、腫脹の度合い・痙痛の度合い・感染の有無
・内出血斑の有無程度・鼻症状(~上顎臼歯の場合)
・オトガイ神経の知覚(下顎臼歯の場合)・舌神経の知覚(主に埋伏智歯の場合)
・皮下気腫の有無(Flapを形成した場合)
これらの事項は術後に確認すべき事項であるとともに,抜歯後に生じ得る事項として術前
に説明しておく必要があります.
③具体的なポイントについて
1)出血の有無:抜歯当日は多少の出血は多々あります。出血の原因を考えて対応する必要があります.抗血栓薬(抗凝固薬,抗血小板薬)
服用患者では再縫合処置が必要となることもあり得ます.また,抜歯を契機に血液疾患が判
明することもあるので注意が必要です.
2)腫脹の度合い:普通抜歯であれば,あまり腫脹することはありませんが,下顎埋伏智歯
で骨を大きく削去した症例では大きく腫脹することも十分想定できます.腫脹のピークは術
後2~3日でありその後は漸減するのが普通です.術後4~5日以降で腫脹が増大してきた時
には感染を疑うべきです.
3)疼痛の度合い:通常は抜歯当日から翌日が疼痛のピークです.その後は低下するのが普
通です.術後2~3日では疼痛が少しであったのに,4~5日して増大してきた時にはドライ
ソケットを疑います.
4)感染の有無:抜歯翌日に手術部位感染(SSI:SurgicalSitelnfection)が成立してくる
ことは,まずありません.米国CDCではSSIは術後30日以内に生じた感染と定義されてい
ますが多くは術後3日から10日以内に生じてきます.
自覚症状としては疼痛消失の遷延または憎悪、排膿(苦い味がする,膿が出てくると訴える患者さんが多いです)が生じます.
抗菌薬の投与も必要となることが多いですが,感染は原因菌よりも感染源が存在していることが重要な因子です.なんらかの汚染物質の存在,腐骨,縫合糸の残存などが原因のため,まずは創部の確認と生理食塩水での十分な洗浄が重要です.
5)内出血斑の有無程度:侵襲の大きな抜歯をした後に内出血斑(いわゆる「青アザ」が生じることがあります.これは抜歯という侵襲により内出血、が生じ,ヘモグロビンが分解・吸収されていく過稚で生じるものであります.赤い出血斑が青黒くなり,最後は黄色く変化して消失します.これはヘモグロビンが赤いヘム→青緑色のビリベルジン→黄色のビリルビンと代謝されていくからです内出血斑は侵襲度合いに応じて反応的に雌じる生体の正常な反応であり,心配する必要はありません
6)鼻症状:上顎臼歯部の抜歯後に鼻症状を生じることがあり得ます.上顎臼歯の上方には
上顎洞があるために抜歯術と上顎洞が交通すると,鼻出血や鼻への息漏れが生じます.細菌感染が成立すると上顎洞炎を引き起こしてしまうこともあるために注意が必要です.
7)オトガイ神経舌神経の知覚異常:1,顎臼歯の抜歯の際にはオトガイ神経を,下顎埋伏
智歯抜去の際には舌神経をも損傷してしまうリスクがあります.疼痛が軽度である場合に
は,麻揮が生じていても患者は疼痛の一種だと誤認して抜歯直後には訴えないこともあるの
で,そのリスクが大である時には術者から、しっかりと麻痺の有無について確認することが
重要です.
8)皮下気腫の有無:Flapを形成してエアタービンを使用した場合,皮下気腫が生じるリ
スクがあります.通常は顎骨周囲炎だけですが,場合によっては眼窩周囲や頚部,胸部にまで
進展してしまう症例もあります.通常は経過観察しながら治癒を待ちますが,もし皮下気腫
を生じてしまった場合には高次医療機関に診察してもらうべきでしょう.
④術後の消毒について
上記のように術翌日に創部の状況を確認することは非常に重要です。
食物残液等の汚染が気になる場合は生理食塩水で洗浄すれば十分です.
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